温かい食事

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凄く楽しかった。 凄くたのしかったのに、何だか心が諦めてしまいそうだった。 翌日も仕事をして、慌ただしく数日を過した。 29日は月子の部署は仕事納めで、夜は忘年会だった。 正直、参加するより寝ていたいくらい疲れていたけれど。 そこは社会人、頑張って参加した。 伊川は月子と背中合わせの席に座り、隣に女子社員が陣取っていて。 月子だから分かる、半分やけくその爽やかモードを継続中。 月子は月子で、なんやかんやと声をかけられ。 性格なのか、無駄にオチをつけた話しを繰り出しながら同じくやけくそだった。 これを乗り越えたらお休みだ。 いつ呼び出されるかは分からないけれど、とにかく休みが来る。 去年は野瀬を知らず、ただ休みが嬉しかった。 目覚ましをかけずに寝て、起きたらぐーたら過ごすのだとワクワクしていた。 でも多分今年はそんな風には過ごせないのだろうと思う。 暇が出来ればそれだけ、頭の隅に追いやっている野瀬への気持ちが存在を主張するだろう。 指折り数えて……もしかしたら休みが早く終わればいいと考えるかもしれない。 「お前、実家帰るの?」 「帰らないかなぁ、連絡はするけど……呼び出されたらすぐ帰れない距離だし」 隣りの県なのだけれど、万が一の急ぎの呼び出しに対応するには少し遠いのだ。 「伊川は?」 「俺はそもそも帰らない」 二次会は不参加で月子が歩き出した後ろから、伊川も誘いを笑顔で振り切ってついてきた。 「飲み直すか?」 「……うーん」 去年ならそうしたかも知れない。 でも伊川の気持ちを知った今、それはどうなのだろうか。 「……だよなぁ」 どこか寂しげに伊川が苦笑した。 「お前さ、ココ最近ギリギリの顔してる」 「うん」 自分でも分かっている。 「……分かってるよ」 でも、駄目だと思えばすぐ、諦められないと思うのだ。 無理なんだろうと思う理由は沢山あるのに、ただひとつだけの、それでも好きだと言う気持ちがそれを押しのけてしまう。 「分かってるの」 甘えてはいけない。 気持ちを伝えてくれた伊川だからこそ、甘えてはいけない。 でも、多分伊川が一番、月子を分かってくれているのだと思うと、張り詰めた気持ちが崩れてしまいそうになる。 「……」 ゆっくりと歩きながら、伊川が月子を見ない様にしてくれているのが分かって、月子は俯く。 「ほんと、損な性格だよなぁお前」 伊川が呆れに優しさを混ぜた声で囁く様に呟いた。 月子はもう一度、分かってる、と答えた。
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