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温かい食事
「ええ……凄い」
「んー、暇してるからねぇ、今日は閑古鳥が鳴いてたし」
小さなコタツのテーブルに、料理がたくさん並べられていた。
「これとこれは、テイクアウト、これは作ってみたよ」
取り皿と箸を渡してくれながら、野瀬はそうだ、と立ち上がる。
「飲み物、どうする?お酒もあるけど」
「え?ほんとですか?……野瀬さんは?」
野瀬がにやりと笑った。
「月子ちゃんが飲むならボクも飲もうかな……ボクこう見えて酒豪だよ?」
えぇ?と野瀬を見上げた月子だったが、その後野瀬が持ってきた酒の種類にその話しが本当なのだと理解した。
「ほんと、ツルツル飲みますねぇ」
「うん、体質なのかな、酔わないんだ」
それは水なのか?と聞きたくなる速度でお酒が野瀬の喉を通って行くのを見ながら、月子はちびちびと飲み進める。
「月子ちゃん、明日は仕事?」
「勿論!明日は流石に売り子はしないですけど」
実は、半休をもぎ取って午後から出勤する。
あまりに楽しみにし過ぎてると野瀬に思われたくなくて、それは言わずに頷いた。
「大変だねぇ、身体、壊しちゃだめだよ?」
野瀬の食べる速度はゆっくりだ。
食べ物を楽しむと言うより、月子との会話を楽しんでくれている気がして、なんだか胸がジンとする。
「大丈夫ですよ、何だかんだで慣れてますから」
本当はいつもギリギリだ。
辛いと思うし、時々なんの為にこんなに忙しくしているんだろうと思う。
お給料が下がっても、もう少し自分の時間が持てる仕事に変わったほうがいいのかもとも思うのだ。
「ほんとに、頑張るねぇ」
「なんだろ、私じゃなくてもいいって分かってても、やっぱり役に立ててると思うと、嬉しいんですよね」
疲れているからか、少し酔ってきているなと感じながら、月子はふわふわと笑う。
野瀬はそんな月子を見ながら、テーブルに腕を乗せてのんびりとグラスを傾けた。
「世の中にね、誰でもいいなんて事ないんだよ」
「え?」
野瀬が喉を鳴らして、それから腕を伸ばしてポン
と月子の頭に触れた。
「月子ちゃんだから、話せる事、言いやすい事がある」
ほんとに一瞬触れた手が離れて、それからその手で野瀬は頬杖をついた。
「……人が変われば雰囲気が変わる。雰囲気が変われば士気が変わる……その場に居る人間からしたら、指導者が誰かって言うのは大事な事だ」
女性だから、それがネックだと思っていた。
でも、だからこそ相手の胸の内が分かるのかもしれない。
「会社にとって、月子ちゃんの代わりが居ても、現場にとっては違うかもしれないでしょう?」
鼻の奥がツンとして、月子は慌ててヘラりと笑った。
「もーっ、野瀬さん優しい!、好き好き!愛してるっ!」
冗談に乗せた気持ちは、はははっと楽しげな野瀬の笑い声が受け止めてくれた。
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