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それから、月子は出して貰ったコーラで美味しく食事を頂いた。
「野瀬さん、ほんとに強いんですねぇ」
「うん、一人では飲まないけどね」
部屋の中が暖かくて、料理が美味しくて。
野瀬が微笑んでくれる空間に心も暖まる。
「あーぁ、明日仕事行きたくないなぁ」
本当に、このまま夜が続けばいい。
「そんな事言っても、明日も月子ちゃんはキビキビ働くよ」
くっくっくっ、と野瀬が肩を揺らして目を細めるのを、月子も苦笑いで受け止める。
次に会えるのはいつだろうか。
まだ野瀬との時間は続いているのに、もうそう思って寂しくなる。
時間もう二十三時が近い。
今日はここに居るようにすると言ってくれたのだから、野瀬もどこかへ帰るのだろう。
もしかしたら、また夜の野瀬に戻るのだろうか。
「そろそろ、お暇しないとですね」
「ん?……あぁ、いい時間だね、残り持って帰る?」
時計に目をやって野瀬がゆっくり立ち上がった。
「持って帰っていいんですか?やった!」
「いいよ、月子ちゃんの為のご飯だからね」
でもねぇ、タッパー無いんだよねと野瀬が考える顔をして。
月子は大丈夫ですと、テイクアウトの容器の空いた隙間に残りを詰めていく。
それを立ったままの野瀬が見ていたのだけれど、
「汚れないかなぁ……月子ちゃんの鞄、まぁ、ボクが持てばいいか」
「え?」
野瀬が、部屋を出ていく。
何だろうと思いながら月子は何とか残りを詰め終えた。
「もう出られる?」
そう言って、野瀬がコートを持って現れた。
「タクシーで送るから、ボクお酒いれちゃったからねぇ」
え、大丈夫ですよと月子が慌てて手を振ったけれど、野瀬は野瀬で首を振った。
「さっき目が回ったのに、一人で帰せるわけないでしょう、はい、大人しく準備して」
嬉しい。
もう少し一緒に居られる。
「……全部はいったね」
「はい、まだ余裕があります」
「忘れ物、ない?」
「はい、大丈夫です」
野瀬はダウンコートを羽織り、月子の横に立って歩き出した。
さっきまでとは真逆の、キンとした冷たさが一瞬で月子の頬を冷やしていく。
「さて、イブにタクシーが走ってるかねぇ?」
「あっ、そうですね」
やっぱり野瀬まで付き合わせるのはどうかと思ったけれど。
見上げた野瀬の横顔は穏やかで。
「……」
寒いけれど、申し訳ないけれど嬉しい。
初めて野瀬と二人で歩く夜道だ。
「美味しかったなぁ、ご飯」
「それはよかった……でもまだ食べられるでしょ?」
月子の大食いを知っている野瀬が、揶揄うそれで微笑む。
「ふふ、勿体ないから、明日も味わって食べるんですよ」
月子がそう答えると、見下ろす野瀬の目がゆっくりと微笑んで細くなった。
「ゆっくり歩いたらいいよ、また目が回ると大変だ」
「……はい」
むしろ目が回らなくてもゆっくり歩きたい。
大通りまでほんの数分の、野瀬とのデートなのだから。
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