温かい食事

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伊川と改札で別れた月子はホームに立った。 妙に力の抜けたスーツ姿の人達の中で、まるで明日も仕事みたいな、重い雰囲気で電車を待っている。 タイミング良く月子の乗る電車がホームに滑り込んで来た。 これに乗って部屋に帰って眠ってしまえば明日が来る。 そしたら大掃除をして、溜まった家事を片付けて。 元旦に食べる何かを考えて作れば一日潰せるな。 電車のドアが開く。 元旦は、ひとりで近くの神社にでも行こうか。 後は……後はそうだ、野瀬の店で買った本を読んでみよう。 頭の中で組み立てる野瀬に会えるまでの時間の潰し方をなぞりながら、足をふみだそうとするのに動けなくなった。 乗るべき電車のドアが閉まる。 小さな風がおきて、月子の前を車両が滑る様に進んで行くのを見送った。 空になったホーム、向かいのホームは反対に滑り込んだ車両で見えなくなった。 多分伊川が乗ったその車両がホームから出て行っても、月子はそのまま立ち尽くしていた。 帰りたくない。 ほんの数日のはずのその膨大な時間が怖かった。 仕事に追われていたから隅に追いやれた野瀬が迫ってくる。 二人で過ごせたあの時間が、より濃い好きを連れてきてしまった。 こつ、と月子の足が一歩後ろに下がる。 くるりと振り返った。 数日を一人で過ごす前に、野瀬に逢いたい。 ゆっくりと踏み出した足が、向かいのホームに向かって少しずつ速くなる。 野瀬の店は、もう閉まっている時間だ。 夜は家に戻ると言っていたから、そもそもあそこには居ないはずで。 月子が向かうのはあの、夜の街だ。 逢えるかもしれないのは、夜の野瀬。 居るかも分からない野瀬に逢う為に、月子は家とは反対に進む電車に乗る為に急いだ。
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