運命

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運命

運命といえば、ベートーヴェンの交響曲第5番。 誰もが知っている有名な曲。いや、大抵の人は、あの「ジャジャジャジャーン」という部分しか知らない。 第2楽章、第3、第4楽章を聞かせて、それが「運命」の楽章なのだとわかる人は少ないだろう。 だからはじめは、「運命」を好きになれなかった。「ジャジャジャジャーン」があまりにも有名で、世俗化していると思った。 が、全曲通して聴いてみると、それは名曲と称するにふさわしかった。 雰囲気の異なる4つの楽章が生み出す調和は、比類のない美しさだ。 それ故に、「ジャジャジャジャーン」を面白おかしく口にしたり使ったりすることに対して、憤りを覚えた。 「運命」からのダイレクトメールを受け取ってから、はじめは交響曲第5番をじっくり聴いてみた。 その曲の中に、DMの差出人「運命」の意図が隠されているかのように。 結局、「ジャジャジャジャーン」というのは運命が扉を叩く音だということ以外、大して収穫はなかった。 しかしそこからはじめの想像力が働き、運命に部屋の扉をノックされた男(自分の分身のような)の話が彼の頭脳に描かれていった。 当初の予定通り、2,3ページ書いたところで彼は本を返信用封筒に入れた。 封筒を投函した時は、自分の未来に向かって小石を投げるのに似た感触があった。 未来にどんな波紋を広げるのか、不安でもあり楽しみでもあった。 運命が扉を叩く、か。 そういえば、命という字に叩が含まれている。 と思いついて、はじめはDMの封筒の差出人を確認してみた。 最初に見た時から何か違和感があったが、差出人「運命」という奇抜さの方が上回って、うやむやになっていた。 運命の命という字の叩の上の横線がなかった。手書きなのでおそらく間違ったのだろう、ありうる事だと思いつつ、はじめの違和感は払しょくされなかった。
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