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「世界が壊されてゆく中、ひとりの勇者がわたしの目前に舞い降りた。その勇者の名はブルーノという――」
情緒的な文章で俺よりずっと良質だ。そして、それはまさに俺の記憶の中にある冒険をなぞる内容だった。出来事も登場人物も同一だ。
ただ、決定的に違うのは、彼女――アイラの目線で書かれていたことだった。
ふと、麻衣が「結末まできたら、どうなったか教えてよね」と言っていたのを思い出した。
「さては俺のノートを勝手に盗み見て、登場人物の目線で二次創作していたのか!」
物語を完成させて驚かそうとしていたのは、麻衣のほうだったのか。
俺の大切な夢の世界に土足で踏み込まれた気がして怒りが湧いてきた。けれど、麻衣は不思議と泣きそうな顔をしていた。俺はその湿り気を帯びた表情に、なにか深い意味があるのだと察して冷静さを取り戻す。
「このノートの最後を読んでみてよ」
そう言われたので、一番下のノートの最後のページに目を通す。すると、そこには平和になった世界を見送りながら、アイラの魂が天へと還っていくという結末が描かれていた。アイラが偽の王女だったことも共通していた。
どういうことだ……?
俺はこの物語の結末を書いていない。けれど、同じ結末にたどり着いていることに、俺の思考は混乱していた。
麻衣はじっと俺の目を見て言う。
「犬飼くんも、この物語を夢で見たんでしょう?」
言い当てられて言葉を失う。けれど、いまだに意図が理解できない。
「わたし、犬飼くんの物語を読む前から、自分の夢を書いていたんだ」
麻衣にも俺と同じく、夢が続くという現象が起きていたのか? それも同じ夢だと……?
「だから、犬飼くんの物語を読んだとき、すごく驚いたんだ。夢は夢じゃなかったってことに」
は?
「だって、物語の中わたし――アイラは、最後に魔法を唱えていたんだもん」
はあ?
「それは――未来でふたりを引き寄せる魔法だったのだから」
はああ!?
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