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アイラが消える瞬間につぶやいた言葉を思い出す。
『もしも奇跡が起きるのなら、もう一度、あなたと――』
麻衣は告白すると同時に突然ポロポロと涙をこぼし始めた。
「この物語、きっとわたしたちの前世の記憶なんだよ。それも別世界にいたときの」
「まさか!?」
驚きで心臓が飛び出しそうになった。けれど、夢を見始めたのは、たしかに高三のクラス替えで麻衣が出逢ってからだ。だから、俺たちがこうして隣にいるのは――アイラの魔法が有効に働いたせいなのか。
そんなこと、信じられるはずがない。けれど、それ以外の理由など、思いつくはずもなかった。麻酔にかけられたように、全身が痺れていた。
麻衣は無言で俺のノートを取り上げ、目を通しながら自分のノートと交互に重ね上げていく。
「これは出逢いと旅立ちの物語」
「これは風のダンジョンの物語」
「これは呪いの森を抜ける物語」
「そしてこれは――世界の命運をかけた、魔王との戦い」
彼女は向かい合い真剣な眼差しで俺を見る。差し出されたノートを一束にして俺に突き返す。
「わたしたちの冒険はハッピーエンドなんかじゃなかった。だけど最後の魔法がわたしたちを未来につないでくれた。この物語はまだ、完結してはいないんだよ」
俺は厚みを増したノートをしっかりと受け取る。その重たさに、彼女の願いの強さを感じ取った気がした。麻衣は心を振り絞るように言う。
「ねえ、お願いがあるの。今は目の前の敵、大学受験と戦ってほしい。それで大学に受かったら、わたしと一緒に一冊の物語を作ってほしいんだ」
あの日、俺はアイラを失い絶望の中にいた。けれど、喪失の悲しみを超えた未来がここにあった。現実の世界にまたがる壮大な冒険は続いていた。
彼女の魔法が起こした奇跡を目の当たりにし、俺の心は奮い立つ。
そうだ、そうだよ! こんな運命の邂逅を手放すわけにはいかないじゃないか!
俺は突き動かされるように、言葉を吐き出していた。
「よし、創ろうよ! 俺たちの運命を編む、最高の一冊をさ」
「うんっ!」
彼女はまばゆいくらいの笑顔を浮かべて涙をこぼした。別れの時とは違う、喜びが光になる涙だ。
ずっと遠い世界からやってきたふたりは、ようやっと巡り合った。
だから俺たちはまた、この世界で物語を続けていく。
新しい運命の一冊を、とつとつと紡ぎながら。
【未完結 完】
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