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『本、交換しないか?』
突然の彼からの提案に驚いた。
だって私が読んでいた本は女の子向けのお話だったから。
「『普段読まないタイプの本を読むのも面白そうじゃん』って彼が言ってね、彼が読んでいた勇者の冒険ものと、私が読んでいた女の子向けのお話の本を交換したんだ」
私の思い出話に、まどかちゃんが静かに耳を傾ける。
「彼はね、翌日にちゃんと感想を教えてくれたの。読んでくれたことが嬉しかったし、私も本の話が出来てすごく嬉しかったんだ」
教室では全然話さない私が、本の話になると話が止まらなくなる様子に彼は笑っていた。私も、本なんて興味がないんじゃないかって思っていた彼が、その一週間は熱心に本を読んでいたことが嬉しかった。
「怪我が治ったらね、すぐグラウンドへと戻って行っちゃった。図書室から見たら、すごく生き生きしていて、あぁ、彼の居場所はあそこなんだなって」
「さみしくなかったの?」
「彼ね、時々図書室に来てくれたの。四年生の時に転校しちゃったけど、それまではお話できていたんだ」
勢いよく扉をあけて、先生に怒られていたっけ。『ヘヘっ』って照れ笑いしながら隣の席にきてくれたのが、嬉しかった。
「この貸出カードはね、その時の大切な想い出なの。あの時、彼が交換してくれたこの一冊の本が、今の私を前へと向かわせてくれているんだ。今、図書委員をやっているのも、将来、図書司書になりたいって思えたのも、想い出のおかげなの」
貸出カードを手に取り、そっと指で名前をなぞる。
『こまき まり』と書かれた上にある、彼の名前を。
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