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チャイムの音でまどかちゃんが身じろぎをし、私の腕からすり抜けた。
「次、図工なの」
「そっか。絵、描くの好き?」
「うん」
はにかみながら頷くまどかちゃんは、はじめて出会った瞬間より表情が明るく感じた。
絵が好きなら、図書室だよりに何かイラスト描いてもらうのもいいかも。
そんなことを考えていたら、まどかちゃんは扉前まで移動していた。
「じゃあね、おねえさん」
名残惜しそうにこちらに手を振りながら図書室の扉をあけたら、すぐのところに人が立っていて、まどかちゃんはもたれるようにぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい」
「危ないぞ。怪我は、ないか?」
背が高いその人は、屈んでまどかちゃんと視線を合わせた。
小さく頷いたまどかちゃんの頭を優しく撫でて「ちゃんと前向くんだぞ」と声をかける。
立ち去るまどかちゃんを見送り、こちらへと向き直った彼を見て、思わず隠れたい衝動にかられる。
残念ながら図書室には隠れられる場所も、逃げる場所もない。
願わくばたった今、来たのであって欲しい。
「いつから、そこに?」
「……聞く気はなかったけど、悪い」
つまり聞いちゃったってことだよね。
よりによって彼に聞かれるなんて。
恥ずかしさで思わず背を向けずにはいられない。穴があったら入りたいくらい。
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