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高校3年、ラウの焦燥
「レクス様! 学食へ参りましょう?」
「抜けがけは禁止よ!」
あー、うるさいな。
国中から秀才の集う、ここエンデ高等学院3階の廊下では、昼休みの度に黄色い声が沸く。
同じクラスのあいつが女子に囲まれている、全く癪に障る光景が俺の視界に飛び込んでくる。
「じゃあ皆で行こうか」
それなりに気品を具えた上位中産階級の子女の学び舎で、休み時間ぐらい羽を伸ばすのは構わないが…、騒々しいったらない。
俺は予習がしたいんだ。
そんな中、
「レクス・ローク! 今日こそは私と熱い議論を交わしてもらうわ!」
モテ男とその取り巻きに単独で挑んだのは、学園一の美女にして才女と呼び声高い、A組のエレン嬢だ。
ブロンドの巻き髪に堂々とした立ち姿、清廉かつ豊麗なオーラを纏うレディ…。彼女すらレクスに執心なのか。
おい、色男。ここをどう捌く? お手並み拝見だな。
って俺はなに教室の隅っこで一観客に収まってるんだ!
そりゃこの俺、ラウ・フットはしがない商家の息子だが、何を隠そう、常に成績上位をキープする特待生なんだぞ!
取り巻き女子の4分の1くらいは俺のところに来たっていいだろ!?
確かにレクスの家は子爵位で、この学院では血統もトップクラス。どうも昨今のローク家は財政難ゆえにその権威も危ういという噂だが、この学術フィールドにおいてその辺はさほど重要ではない。
あくまで試験の結果がすべて。頭のデキで雌雄を決する戦場なのだ。
その試験結果で奴は、全教科平均97%マークを誇る、不動の首位サマときた!
俺は平均91%…これでも偏差値70超えだからな。奴は化け物かよ。
そのうえ性格もずば抜けて人たらしって何? 親しみやすく気配り上手、よって人望も厚く、聖人だの奇跡の存在だのと賞賛にも事欠かない。
…はぁ。で、女たちの戦いはどうなった?
「ごめんエレン。課題が終わってなくてさ」
そう伝えたや否や、彼は女子の波に流されていってしまい、エレンはぽつんと取り残された。いくら彼女でも多勢に無勢だもんな。って、あのエレン嬢を無下にしただと!?
学園のマドンナだぞ、もったいないと思わないのかレクスよ!
密やかに肩を怒らせたエレンは、それでもスンと落ち着きを取り戻し、踵を返した。
「ん?」
あ、バチッと目が合ってしまった。いや、俺そんな好奇の目で見ていたわけではっ。
しかし彼女は、この一瞬目が合った事実などなかったかのように、すっとクラスに戻っていった。
…っ、俺だって試験結果は上位一桁の男だぞ!
だが実際、彼女は推定平均93%プレイヤーだ。自分より下位の男は相手にしないって!?
そりゃそうだよな。俺が女でも俺よりレクスに惚れる。なんであんな完璧な奴がいるんだよ。
しかし、出自や物腰はどうにもならないが、学力なら超える余地がある。あいつだってフルマークは取れていないんだ。
ただ、今の学習法のままでは、差は一向に縮まらない。
俺は途方もなく長い溜息を吐いた。
よく考えてもみろ。
あいつは才能の上に胡坐を掻く男じゃない。水面下で必死に水を掻く白鳥のように、何か特別な学習法を編み出しているに違いない。
そうでなければ…悪魔と契約を交わしているとか?
これは徹底調査あるのみだな。
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