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安西靖史は自宅で最期を迎えるためホスピスを退院し、毎日ベッドで横になり過ごしている。窓から眺める空の移り変わりと、妻の姿を心に焼き付けるように。
「やすしさん……本当に大丈夫なの?」
靖史の妻和子は、心配そうに靖史に話しかける。
「心配いらないさ。午後から看護師さんも来てくれる。たまにはのんびり服でも買いに行ってきなさい」
「でも……」
「いいから。出会った頃のように、おめかしした和子を見せてくれるかい?」
和子は頬を赤らめ頷く。
この場に娘達がいたら「まーたやってるよ」と突っ込まれるだろう。
靖史は妻を見送ると、枕元に置いているアルバムを手に取った。
「懐かしいな……新婚旅行で行った宮崎の」
新婚旅行での写真。
2人の娘の結婚式の写真。
そして、幼少期安西家に引き取られてからの写真。 靖史と育ての母親である『安西桂子』
実の母親に放置され、まともな躾を受けていなかった靖史。安西家に引き取られたばかりの頃は、風呂を嫌がり食事は手掴みで腹を満たすための行為。そんな靖史に根気強く、食事の作法や挨拶を教えてくれたのが桂子だ。
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