3人が本棚に入れています
本棚に追加
安西桂子の夫はとうに亡くなり、現在桂子は娘夫婦と暮らしている。
靖史にとって桂子の子供は、母親の違う姉と兄。実の母親から放置されていた靖史に優しかったが、どこか距離のある関係。
「桂子おばさんは元気なのだろうか?」
安西家にとって、自分はいらない子供。靖史は安西家に引き取られてた頃からそう思っていた。
母親が亡くなったからと、いきなり愛人の子供を引き取って育てるのは、色々複雑だっただろう。まして自分はろくに躾もされていなかった。
それでも、桂子は弱音を吐く事無く育ててくれた。
「そう……あの時も……」
靖史の父親が出張先で、突然亡くなったのは靖史が中学生の時。
それから桂子は独身時代に働いていた、大手化粧品会社のかつての上司に頭を下げて、販売員として復帰し靖史を養ってくれた。桂子に負担をかけたくないからと、靖史は中学を卒業したら働くつもりで担任の先生に相談していた。
それを知った桂子は『せめて手に職をつけなさい』と高等専門学校への進学を勧めてくれ、そのおかげで靖史はエンジニアとして働き、妻子を養う事ができた。
(あんな母親ではなく、桂子おばさんが本当の母親だったらよかったのに)
それは靖史の心の中に、くすぶっていた思いだ。
最初のコメントを投稿しよう!