case1 山之内絹江の場合

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case1 山之内絹江の場合

 私は世田谷区の高齢者施設にいます。  夫は数年前に亡くなりました。  私は子供や孫に恵まれ、幸せな人生かもしれない。  夫はとても優しい人でした。だけど……私が夫を愛する事はなく、それに関しては申し訳ないと思っています。    私は夫と結婚する前に愛し合い、将来の約束をした男性がいました。  彼の名は『井川助次郎さん』  私が通っていた女学校の近くに住んでいて大学講師として働いていた方。  彼と将来の約束をして、お互いの家族に紹介しよう。そんな話しが出てきてすぐ、私に縁談が持ち込まれた。 『鉄道会社を経営する山之内家の次男』との縁談。  山之内家の次男で鉄道会社で働いている和夫は、取引会社の下請けの娘でしかない私を何処かで見たらしい。  私の両親は乗り気で結婚させようとした。なぜなら、傾きかけた会社の立て直しを山之内家が約束したから……。もちろん私との結婚が条件。    
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