プロローグ

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プロローグ

「最近、この辺りで子供がいなくなる事件が多発してるんだってさ。」 放課後、学校のグラウンドで友人のマサトが何気なく呟いたその言葉に、カイトは眉をひそめた。 いつものように部活を終え、片付けをしている最中だった。 秋の夕暮れが空を赤く染め、日に日に冷たくなっていく風が、カイトの汗で湿った髪をかすかに揺らしている。 「いなくなるって、どういうことだよ?誘拐とか?」 「さあな。でも、噂じゃあもう3人も消えたって話だ。しかも全員俺らと同じくらいの年頃らしい。」 マサトは軽い調子で言いながら、ボールを蹴り返してきた。 カイトは眉間に皺を寄せながらも、その話を頭から追い払おうとした。 田舎の小さな町で起こる事件なんて、どうせ大げさな噂に過ぎないだろう。 そんなことを考えながら、カイトは家路につく準備を始めた。 その日は特に変わったこともなく、いつも通りの平凡な一日が終わるはずだった。 自宅までの道は、いつものように人気が少なかった。 カイトの家は町の外れにあり、夕方になると人通りがほとんどなくなる。 普段ならその静けさが心地よいはずだったが、今日は何故か不安を感じた。 マサトの話が頭から離れない。 「……まさかな。」 自分に言い聞かせるように呟く。 誘拐事件だなんて非現実的だ。 そんなことが本当に起こるわけがない。 だが、心の奥底にじわじわと広がる違和感を、完全には振り払えなかった。 カイトはふと立ち止まった。 いつも通る道が、突然異様に感じられる。 木々が風に揺れ、何かが囁くような音が耳に届く。 肌に感じる寒気は、ただの冷たい風だけではない気がした。 「なんだよ、ただの風だろ……」 そう自分に言い聞かせる。 しかし、その瞬間、カイトの後ろに気配が走った。 振り返ると、何も見えない。 だが、確かに感じた。 誰かがすぐ近くにいる。 「誰だ……?」 言葉を発した瞬間、何かが背後から襲いかかってきた。 カイトは反射的に身を翻したが、遅かった。 視界が暗転し、意識が遠のいていく。 その最後に感じたのは、冷たい何かが腕に巻き付く感触と、遠くで響く鈍い足音だけだった。
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