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アインスが世界に降り立つと同時に時間が止まる。世界への干渉を少なくするために、彼女には時を止める力が備わっているのだ。静止した人々から赤、青、黄、白、黒と色彩豊かな光が現れ、それらは混じり合い一つになるとアインスの心臓部へと吸収された。
吸収された光は人の心である。彼女が心を食べたところで人の心が失われるわけではない。人が抱えきれなくなった心をアインスは食べているのだ。
「心とは何でしょう」
命を繋ぐのに十分な心を集めたアインスが時の狭間へ戻ると、そこにはまだ迷い人のネロがいた。
「お嬢さん、おかえり」
突然消え、突然現れた彼女に驚きつつも、ネロは頬を緩ませた。彼からすればこの地自体が摩訶不思議なもので、何が起きようと不思議ではないと割り切ることにしたのだ。
「早く元の世界に帰りなさい。ただこの地にいたくないと願えば勝手に帰れるわよ」
冷たく言い返してアインスは再び別の世界に飛び立った。誰もいない森の中に降り立ち、石の上に腰掛ける。この世界の住人ではない彼女がこの世界の者と関わるのは面倒事が起きる可能性があるので、極力関わりたくないのだ。だからといって、心を集めに来たわけでもないのに時を止めるのは、それはそれでこの世界を壊しかねない。
アインスはゆっくりと溜息を吐いた。ネロを見ていると調子が狂う。
「……調子が、狂う?」
自分の中に湧き上がった感情に目が点になる。これではまるで心があるかのようではないか。心を食べる人形でしかないはずの自分に心があるなどあり得ない。
「人形に、心……そんなわけ」
無意識に触れた心臓はドクン、ドクンと鼓動していた。それは可笑しくない。元から人形とはいっても作りは人間と同じで初めから心の蔵は動いていた。膝を抱えて身体を丸める。
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