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そのまま時間が過ぎ去り、ネロが元の世界に帰ったことを期待しながら時の狭間へと帰った。しかし、期待は裏切られてネロに再びおかえりと出迎えられる。その後も幾度となく別の世界へ飛んでは帰る、を繰り返した。その度に。
「おかえり、お嬢さん」
地べたに座り込み、本に何かを書き込む手を止めてネロは顔を上げる。
これで彼に出迎えられた回数は九十九回に到達した。
「いい加減に帰ってよ! 此処は人が住んで良い場所じゃないの。このままだと貴方死ぬわよ」
初めてネロにアインスから声を掛けた。どれだけの時が過ぎたのか、明確には分からないがそれでもネロが今までの迷い人より遥かに長い間この地に滞在していることだけは分かる。
「そうなのかい。ここは不思議と食欲もわかないし、眠くもならないけど不便では」
「噓でしょ」
もう手遅れだ。この地に馴染みすぎている。人間としての欲がないことを受け入れてしまうほど、時の狭間に適応してしまっているのだ。それでも一縷の望みに賭ける。
「お願いだから今すぐ帰って。まだ間に合うかもしれないから」
「いや、もう無理だよ」
ハッと息を飲む。平然と笑うネロが理解できない。そもそも何故無理だと彼は分かっているのか。迷い人は滞在できる限界を知ることなどできないはずだ。
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