6人が本棚に入れています
本棚に追加
***
追憶の彼方から意識が戻ってきた。アインスは懐かしげに本を捲る。これはネロがいた証であり、ネロはこの身に心を宿してくれた恩人。そして、ツヴァイがこの庭園を生み出すきっかけとなったのもまたこの本だ。
「あっ、もしかしてそれあの時の本ですか」
「ええ、そうよ」
ツヴァイにはこの本に対する思い入れは差ほどないだろう。彼にとっては黒すぎる場所を綺麗にしたくて、偶々近くにあったこの本に載っている花を再現しただけなのだ。
「毎ページ、隅に描いてある花、全部手描きですよね。余程花が好きな人なのでしょうね」
隅っこの方に同じページに映る写真の花を模写したものが描かれているのだ。最後のページを捲ると、そこには『お嬢さんならきっと綺麗な花を咲かせられるよ』と万年筆で書かれた文字があった。
残念だけど綺麗な花を咲かせたのは弟の方だったわ、と文字を手でなぞりながら心の中で呟く。
「ふふ、甘い」
ツヴァイがピンク色の飴を食べながら頬を緩ませる。その飴は人の心だ。ツヴァイは感情も想像力も豊かな弟だった。人の心を飴の形にして溜める。そうすれば身体が吸収できるより多くの心を纏めて集めることができて、さらにはストックすることもできるのだ。アインスには微塵も思いつかないようなことをツヴァイはやってのける。
我が弟ながら優秀だ。
『もう寂しくないかい』
どこからともなく声が聞こえた気がした。可愛い弟がいるからもう大丈夫、と目尻を下げて微笑む。
最初のコメントを投稿しよう!