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*
僕の仲間は、今も生きているだろうか。
今朝方止んだ粉雪が天使の心に暗雲をかける。
いや、きっと大丈夫だ。
目指す薄明の眩しさに、天使は縋るように希望を抱いた。
魂の煙が優しく天使を運ぶ。
拓けた視界に映る地平線に雲が重たく伸しかかる。
もうすぐだ。もう少しで、僕は仲間に会える。
天使が天へ近づく度、強い風が行く手を阻んだ。
少しずつ、けれど確実に、ここまで天使を運んだ煙達が、風に流され安らかに散り消えていく。
梯子に届くまで、架け橋となる煙が足りなくなることを、天使は薄く予感していた。
天使は男の小屋から持ってきた、保険でもあり最後の希望でもあった小さな箱を一つ手の中から取り出した。
暖炉脇にあった、側面にヤスリのついた小箱。
天使は中から一本取り出すと、側面のヤスリ部分に先端の赤いダマを擦りつける。
乾いた摩擦音と共に小さな炎が灯る。
天使は躊躇うことなく、その炎を自らの翼に引火させた。
たちまち火が羽を燃やし背を焼いた。
炎を背負って、天使は更に上昇する。
自身が生み出す煙に乗って、天使は梯子に手を伸ばした。
あと少し。
その時、新たな煙が天使を梯子へと送り届けた。
それはとても暖かく、清らかな魂の煙。
「……ありがとう。貴方のおかげで、僕は天へ帰れます」
溢れる涙が地へ降り注ぐ。
消えゆく薄命の煙に包まれ、かくして天使は天へと続く梯子を昇っていった。
*
けたたましい犬吠が山に響く。
「こら、そんなに吠えなくても分かっている」
先行く犬を追うように、スーツ姿の男が山を登る。
「……ああ、こりゃあ酷いな」
遠くからでも分かる激しい炎と煙に、男は顔を顰めた。
薄明が、男の進む先を照らしている。
「ふん。天使の梯子、か。天使様のお墨付きだな、こりゃ。この先に“ホシ”がいる」
さて、もうひと踏ん張りだ。
男は連続殺人犯を逮捕するべく、タレコミのあった私有地へと向かっていった。
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