一、サバの缶詰め落下事件

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 神秘的で深くすいこまれそうな翡翠の瞳。うわさで聞いたことはあったけれど、この目で見るのは初めてのことだ。二度見してみても間違いない。金髪翠眼の美少年がそこにいた。日本語は通じるのかと突然のことにあわてふためき、しどろもどろになりながらもつたない英語を口にする。 「せ、せんきゅー。おっけー、ぷりーず、みー、ゆー、カン」  おお、頭が回らない。俺はそこまで成績が悪いわけではないはずなのだが。しかしそれもそのはず、異国の方との交流を俺はまだ学んでいなかったのだ。  少年は軽く口の端を持ち上げてほほ笑みを作り、声変わりする前の清く澄んだ声で言葉を発した。その言葉は英語ではなくてとても流暢な日本語だった。イントネーションにもおかしな点は見当たらなかった。そして頭の良い異国の方が使いがちな小難しい日本語でもなかった。もちろん聞き取れない早さで言われたわけでもない。  それなのに俺はその少年の言わんとする事が理解できなかったのだ。  少年は、こう言った。 「どうして飲み込んでしまうんだい?」  と。
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