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「かのシャーロックホームズは言ったそうだよ。ひとの記憶は空っぽの屋根裏部屋のようなものだってね。そこを要らないもので埋める必要はないのさ。必要なものを必要なだけ、取り出しやすいように整理しておかないといけないんだよ」
「なるほどな」
と頷く。
少年は、ホームズの大ファンなのだろう。それで探偵らしき格好をしているわけだ。コスプレイヤーというやつかもしれない。
「でも、名がないと不便ではないか」
と訊くと少年はひと指し指をほっぺに当てて、ふむと悩んだ。
「それもそうだね。でもさ、ひとの記憶はたったの一ペタバイトしかないんだよ。そうだね。よし、アルファベットを開放しようじゃないか。きみ、ひと文字だけ名乗ってよ。頭文字をボクに教えておくれよ」
おお、これはまた不思議なことを言い出したぞとは思うが、なんとなくその翡翠の瞳には逆らえずに答えてしまった。
「K、だな」
「よし。今日からきみは、Kさんだ」
名を奪われた。
あだ名にしても素っ気ないものである。ただ、満足気にニンマリと微笑む少年を咎める気にはならなかった。
「それでは君は、なんと呼べばいいんだ」
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