一、サバの缶詰め落下事件

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 差し出すその手にはエコバックが握られていた。なんだ、優しいのかという質問はそのためだったかと合点がいく。 「なんで俺が」   抵抗を試みる。  が、姉も心得たもので、 「いいじゃん。優しいんでしょう?」  ニコリと笑みを崩さない。  自分では行かないのかと目で訴えるも、 「お姉ちゃんは外に出るにもね。いろいろと準備があって大変なのよ」  と、勝手にひとの心を読んだ上での返事をするのだから困ったものだ。  姉はサトリか何かなのだろうか。  ちらと目を配せ、 「外に出る準備、か」  と嘆息をつく。  すでに化粧はしているようだし、あとは着替えるだけじゃないのだろうか。いやいや、大学生ともなると他にもいろいろ準備がいるのかもしれないと思い直す。それに俺が女子の準備のなんたるかを知っているとは思えなかった。
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