一、サバの缶詰め落下事件

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 覚悟を決めたと言えば多少は大げさになってしまうが、この少年の気の済むまでは付き合ってあげようかと思った。  それを言葉にする前に言われる。 「契約成立だね」  む、また読まれた。顔に出やすい性質なのだろうかと、ほほを揉みしだく。 「それで、どうするんだ」  つやつやと綺麗なブロンドヘアーがサラリと揺らぐ。 「まずはなにより、現場百遍だね。事件は現場で起きているんだよ、Kさん。もっともボクとしては、アームチェア・ディテクティブでありたいと思う所なんだけどね」 「おお、なんだそれは」  質問に喜色を浮かべている。話したくてウズウズしているようにみえる。 「安楽椅子探偵さ。現場で起きたはずの謎を外にでることなく、会議室で解決しちゃおうってわけだよ。推理に推測をかさね、思考の末に結論へとたどりつくのさ。それは至高の推理とも呼べるよね。探偵冥利に尽きると言ってもかまわないはずだよ」  が、言ってがくりと肩を落とす。 「待っていても謎が寄ってくるなんてのはね。ボクにとっては理想の夢のハッピーワールドさ。ただそれも、現場の刑事さんのたしかな捜査があってのお話なんだよね」 「そうなのか」 
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