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自転車にまたがり、肩越しに姉の姿がないのをもう一度見て自転車をこぎ始める。もうすでに腹は減っていた。どうやら急いだ方がよさそうだ。ペダルを漕ぐ足にも力が入る。曲がり角を颯爽と曲がると目の前でちいさな子どもが泣いているのが目に入り、キッと自転車を止めて近付いていく。
「どうした、ぼうや」
泣いていたぼうやの名前は知らないが、顔は知っている。近所の杉田さん家の子だった。向こうも俺のことを知っていたのだろうか。まるでおそれる様子はなく、涙を拭いながら訴えかけてくる。
「羽がっ……、羽があ」
おお。俺はてっきり杉田さん家の子だと思っていたが、どうやら翼を怪我したエンジェルだったらしい。泣きながら空を指すので天界に帰りたいと言われるのかと身構えたが屋根を指差す。エンジェルが堕天使に変わる前にと思い、側にあった電柱をひょいとのぼって屋根をのぞいてみる。
「ああ、羽根だったのか」
そこにバドミントンのシャトルをみつけた。エイヤッと手をのばし、ポトッと下へ落としてやる。羽根を取り戻したエンジェルは礼をのべてパタパタと去っていった。
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