一、サバの缶詰め落下事件

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 どうやら俺のでかい身体が役に立った。中ニの終わりから急に背がぐいっと伸びたのだ。以来、これ幸いだと姉には便利に使われている。何でも、かゆいところに手が届くそうだ。もっとも届くのは俺の手にちがいないのだが。  地面に降り立ち、パンパンと手を払って再び自転車にまたがる。いかん、いかん。道草をくってしまった。はやくスーパーへ向かわねばと平坦な道をひた走り、古い家が立ち並ぶ中を抜けていく。この辺は古い家屋が集まり何とかいう文化財にもなっているらしいが、俺に言わせればやはり古いだけの家並みだった。  ひとも町並みも古く、片田舎と呼ぶ方がしっくりとくる。もともとは埋め立て地だったらしくて海が近くにあり、どうかするとすぐに顔をのぞかせる。隣の市に行こうとすると大きな橋を超えていかなければならない。少々と辺ぴな場所だった。  かつて機能していただろう商店街を横目にとらえながら走り抜けていく。今はもうシャッターを閉めたままの店の方が多い。ようこそと大きく書かれた入り口の門が、すこし寒々しさを感じさせる。
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