第五章 心を置き去りに(2)

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第五章 心を置き去りに(2)

 ふらふらしながら部屋に戻った。暑い。息が上がっている。走った後だから、っていうにしては、変だ。  熱が出てきた?  部屋まではなんとか辿り着いた。水遊びしていたユーゴとの騒ぎで、服が濡れて貼りついている。おまけに汗も噴き出してきて、気持ちが悪い。  脱ごう。  でも、上からボタンをふたつ外したところで力尽きた。立っていられなくなって、ベッドに倒れ込んだ。 「はぁ……」  吐息が熱い。頭がぼうっとして、眠いのかなんなのか、意識が曖昧に煙る。  肌が……。  ちりちりして、焙られているかのようだ。かゆい……わけでもないし、知らない感覚で、身体中がおかしい。 「うう……」  変だ。  胸元が痺れる。濡れた服が擦れて、舐められているみたいで。 「あ……、あっ」  気がつけば俺は、指で胸をまさぐっていた。  自分が何をしているか理解してぎょっとした。女の子みたいに乳首をいじって喘ぐなんて、そんな。  でも、たまらなかった。やめなきゃと思うのに、手が動いている。  右手で胸を撫でながら、左手は下げた。下半身のものが硬く反り返っている。  なんで。風邪をひいたんじゃなかったのか。朝から具合が悪くて、一日休もうと思っていたのに。なんでこんなことになっているんだ。  手は止まらない。はちきれそうな陰茎を包んで、扱いて。 「んぅぅ……っ」  変だ。下半身の奥が疼いている。後ろの方。前の刺激では物足りない。  俺は目を閉じた。瞼に男の顔が浮かぶ。その瞬間、どくんと心臓が跳ねた。 「テオドール……っ」  どうして。  こんなのおかしい。絶対おかしい。自分で自分がコントロールできない。胸と下半身を慰めながら、テオドールを思い、頭を巡るのはひとつのことだけ。  ――犯して。俺を犯して。  気が狂いそう。誰か助けて。  扉が開いた。 「リシェ。体調は――」  テオドールだった。彼はその先を飲み込み、打たれたかのように立ち止まった。  来てほしかった。来てほしくなかった。俺は潤んだ瞳で彼を見る。  彼の頬が、みるみる紅潮した。 「くそっ……、発情か!」  テオドールは大股で近づいてきた。サイドテーブルの引き出しを乱暴に開ける。が、そこを即座に閉めて、次にドレッサーをかき回した。 「な、に、してるの。ねえ」  俺はどうにか上半身を起こした。  テオドールが振り返る。彼らしくなく、ひどく焦っていた。 「薬はどこだ!」 「薬……? 薬って、なんの……?」  ろれつが回らない。 「ないのか? なぜだ! なぜ対処しない!」 「何、言ってるの? わかんない……」  テオドールは苛立たしげに唸った。 「いや、どのみちもう遅い……! いつからそうだったんだ?」 「わかんない……怖い……」  俺は彼にすがりついた。自分が自分じゃないみたいだ。このままおかしくなってしまうんだろうか。そう考えると怖くてたまらなくて、涙が溢れる。そのくせ身体は彼に犯してほしくて燃えている。  欲しい。彼のもの(・・)で奥まで貫かれたい。中に彼を感じたい。濃厚な精液を注いで孕ませてほしい。 「テオドール……お願い……」  ――俺を犯して。  違う。そうじゃない。  おかしい。おかしい。 「助けて……助けて、テオドール……怖いよ……」  テオドールははだけた俺の胸元を見ていた。肌があらわになり、赤く充血した突起が見えている。彼の視線がそこからさらに下に落ちていく。  その両目に、情欲が燃えている。  彼は俺を抱き寄せて、覆いかぶさってきた。 「あぁぁっ……」  首に鋭い痛みを感じた。それが全身を駆け巡り、なぜか奥にまで響く。腰ががくがく震える。
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