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第五章 心を置き去りに(4)
夕食は部屋で食べた。
一応、食欲はあった。腹の変調も収まっていたから、普通に食べられた。
発情の余韻は、ただ怠いだけ。
夕食には「勝利の月」が添えられていた。街で見たものよりずいぶん小ぶりで、デザートとして重くないよう配慮されているみたいだ。
俺はそれを手に持ってかじる。
ひとり部屋で食べていることが、なんとなく寂しい。朝はそんなこと思わなかったのに。
俺は首筋の噛み痕に触れる。
彼は俺を抱かなかった。あんな状態の俺を抱くなんて良心が許さなかったんだろう。さっきの話によれば、アルファである彼は発情期のオメガの色香に抗いがたいはずなのに、すごい精神力だ。
俺だって、あんな状態で抱かれたくはなかった。でも、いまになって――。
抱かれてもよかったのにな、なんて、思う。
もしも俺が「抱いて」と口にしていたら、彼は俺を抱いただろうか。それとも、やっぱり抱かなかっただろうか。
噛み痕を触っていると、胸が苦しくなる。
「テオドール」
ここにいない人を呼びたくなる。
番になるって、どういうことなんだろうか。結婚はしていても、キスもしたことがないのに。
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