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第六章 触れなば落ちん(3)
俺は死んでしまうかもしれない。
あんまり恥ずかしくて、そんなことを思った。
テオドールは俺の夜着も下着も脱がせて素裸にした。俺をベッドに横たえて、肌にてのひらを滑らせる。
俺はどうしていいかわからなくて、されるがままになっていた。彼の視線が裸体に這っていると気づいてはいても、何もできない。隠すのもおかしい気がして。
見られるのって、こんなに恥ずかしいものなのか。
彼が俺のこめかみにキスをする。
「こんなに美しいものを目にしたのは初めてだ」
「男の身体だよ?」
「それがどうした?」
彼も服を脱ぎ捨てた。盛り上がった胸筋や、割れた腹筋があらわになり、俺は目を瞠る。
俺だって同じだ。こんなに美しいものを見たのは初めて。その中心で屹立するものも、まるで彫刻のようだった。
彼は不敵に笑う。
「私は不能ではないと証明しよう」
「そんなこと、思って、ない」
テオドールの指が俺の頬を撫で、唇を辿る。その感触だけで俺はどうにかなってしまいそう。どうしてだろう。際どいところを触られているわけでもないのに。
首が疼く。彼に噛まれたところが。
「テオドール……」
たまらず、俺は両手を上げてねだった。
彼は俺を抱きしめて、唇を合わせる。さっきよりももっと深いキス。息を継ぐ間もなくて、苦しくて、切ない。
胸がこすれる。腹と、その下の男の部分も。
彼がそこを握った。俺は息を呑んだ。彼のてのひらに、雫が溢れた。
「もうこんなになっている」
からかうように言われて、俺は赤くなる。
キスだけで先走りを垂らすほど興奮するなんて。でも、彼が相手だとだめだった。触られるだけで感じてしまう。
俺は羞恥のあまり顔を背けた。
さらされた首筋に、彼が口づけを落とす。自分がつけた噛み痕に、再び噛みつく。
「ああ……」
痛くない。優しく甘美な刃だ。
舌が噛み痕を舐める。彼は首筋から鎖骨へ、胸元へとキスを降らせた。小さく、赤く、ぴんと張った突起に、舌で触れる。
「はぁ……っ」
そこは、発情した時にいじってしまったところ。彼の舌は自分の指よりずっといやらしくて、俺は身もだえる。
「んぁ……、あ……ん、ふ……っ」
声が抑えられない。
もう片方の乳首を、彼が指で摘む。先端を指の腹でもてあそばれる。普段は意識もしないちっぽけな尖りが、充血して痛いくらいだった。
ようやく彼が胸を解放してくれた時には、安堵なのか失望なのか情緒がぐちゃぐちゃだった。潤んでぼうっとした頭と、敏感に求める身体とで、ただ横たわっていた。
だけど、もちろん、それで終わったりなんかしない。
テオドールは胸から下へ、腹へと舐めていく。期待してしまっている自分が、俺は怖い。
「て、テオっ、嫌だ」
上手く言葉が紡げない。
俺の小ぶりなものは反り返って下腹につきそうだ。テオドールがその上、胃の辺りを舐めているから、怖くてたまらない。
もしもそこを舐められたらどうなってしまうのか、わからなくて。
初めてじゃない。昔には経験がある、って言うべきか。だから、不安になる必要なんてないはずなのに、いまは怖いんだ。
「あ、あの、そんなに、念入りにしなくていいから。その、さらっと終わらせて」
「なぜだ?」
心外だ、と言いたげに、テオドールは眉をひそめる。
さらっと終わらせて――なんて、行為の最中に男に言う台詞じゃない。そんなの、俺もわかっている。
でも、どうしても。
「だって、あんまり気持ちいいと、怖いから」
「怖い?」
彼が獰猛な笑みを見せる。
「怖いくらい気持ちいいのか」
「え……」
逆効果、だったみたい。
テオドールは俺の太腿を撫でた。脚を開いて、間に手を忍ばせる。
「あ……っ」
彼の大きなてのひらが俺の陰嚢を包んだ。ゆっくり、確かめるように揉まれて、俺は思わず固く目を瞑ってしまう。
俺のものの先端に、あたたかく湿った舌が触れた。裏筋に添って濡らしていく。俺は気が遠くなる。
とうとう彼の口の中に入ってしまった時には、俺は息も絶え絶えだった。
「あ、んん……、う……、くぅ……っ」
彼の指先が秘所を探っている。排泄にしか使ったことのない窄まりを。
指がぬるりと滑って、中に入ってきた。
「え、な、なんで……っ?」
俺は驚いて覗き込んだ。
なんで、そこが。
濡れているんだ。
テオドールが俺の竿を離して、身体を起こした。
「あなたは本当に何も知らない」
指が深くまで差し込まれる。
「オメガは性別に関わらずその身体に男を受け入れる。つまり、こうして……」
俺は浅く指を出し入れした。くちゅくちゅと卑猥な音が鳴る。
「興奮すると濡れる」
「や、やだ、そんなのっ」
「私は嬉しい。あなたが感じてくれているという確かな証だ」
テオドールは俺の中で指を曲げ、ある一点をぐりぐり押してきた。経験したこともない感覚がそこから湧き上がる。内側が震える。
「あっ、あぁぁぁっ」
知識としてだけは、知っている。男の直腸には前立腺があって、上手く刺激すると前より気持ちいいって。
「い、嫌だ、テオドール……っ」
イくのが怖い。涙が零れる。
テオドールは苦笑した。
「泣くほどか。困ったな。まだこれからなのに」
これから。
俺は彼のものに目を走らせる。天を突く雄の象徴。俺よりずっと立派だ。
優しくしてほしいって、前に俺は彼に言った。彼はいますごく優しくしてくれている。
俺は大きく息を吸い込んだ。
「いいよ。挿れて」
彼は笑う。
「まだだ。あなたに痛い思いはさせたくない」
テオドールはもう一本指を増やした。内側を探り、深く入ってきたかと思えば、そこにしばし留まっている。それから、静かに退いて、また入ってくる。
俺を拡げているんだ。狭い門がやわらかく緩んで、準備が整う。
彼が指を抜いた。俺の腿を開いて、後孔に熱をあてがう。
「あ……、あ……っ」
テオドールは硬くて大きかった。腹まで拓かれるかのようだった。骨盤がめりめりと軋む。
「きついな……。痛いか?」
彼の額に汗が滲んでいる。
俺は頭を振る。ぎりぎりだけど、痛くはない。ただ、自分の内側に他人のものを感じる、この初めての感覚が怖かった。
「リシェ」
テオドールが俺の手を握る。
彼は最大限配慮してくれていた。紳士的に、思いやり深く、俺を貫いた。
「んぅ……、うぁぁ……」
俺が呻くと、彼は動きを止める。
それを何度か繰り返して、俺の身体も少し慣れた。
彼のものが内側の敏感な箇所を擦る。さっき彼が指で刺激した、前立腺だ。
俺は喉を反らせて身をよじった。膝が揺れた。下半身から血が逆流してくるみたいだった。
テオドールは俺の反応を窺っている。同じところをもう一回、いや、何度も擦ってきた。
「あ、あ……、んぁっ」
気持ちいい。さっきまでの不安も恐怖も溶けてしまう。
見上げるテオドールもやや眉を寄せて、よさそうな顔をしている。中にある硬いものがますます大きくなってきた。深いところまで侵入してくる。
「あぁ……、やぁ……ん、テオ……っ」
俺は喘ぐしかできない。もう耐えられなかった。尻が締まる。腿がわなないて、止められない。
「あぁぁ――……っ」
白濁した液体が、腹から胸まで飛ぶ。
彼が背を丸めた。
「く……!」
ああ……。
中で彼が脈打っている。二度、三度と突き上げて、彼は目を閉じた。
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