第六章 触れなば落ちん(3)

1/1
前へ
/50ページ
次へ

第六章 触れなば落ちん(3)

 俺は死んでしまうかもしれない。  あんまり恥ずかしくて、そんなことを思った。  テオドールは俺の夜着も下着も脱がせて素裸にした。俺をベッドに横たえて、肌にてのひらを滑らせる。  俺はどうしていいかわからなくて、されるがままになっていた。彼の視線が裸体に這っていると気づいてはいても、何もできない。隠すのもおかしい気がして。  見られるのって、こんなに恥ずかしいものなのか。  彼が俺のこめかみにキスをする。 「こんなに美しいものを目にしたのは初めてだ」 「男の身体だよ?」 「それがどうした?」  彼も服を脱ぎ捨てた。盛り上がった胸筋や、割れた腹筋があらわになり、俺は目を瞠る。  俺だって同じだ。こんなに美しいものを見たのは初めて。その中心で屹立するものも、まるで彫刻のようだった。  彼は不敵に笑う。 「私は不能ではないと証明しよう」 「そんなこと、思って、ない」  テオドールの指が俺の頬を撫で、唇を辿る。その感触だけで俺はどうにかなってしまいそう。どうしてだろう。際どいところを触られているわけでもないのに。  首が疼く。彼に噛まれたところが。 「テオドール……」  たまらず、俺は両手を上げてねだった。  彼は俺を抱きしめて、唇を合わせる。さっきよりももっと深いキス。息を継ぐ間もなくて、苦しくて、切ない。  胸がこすれる。腹と、その下の男の部分も。  彼がそこを握った。俺は息を呑んだ。彼のてのひらに、雫が溢れた。 「もうこんなになっている」  からかうように言われて、俺は赤くなる。  キスだけで先走りを垂らすほど興奮するなんて。でも、彼が相手だとだめだった。触られるだけで感じてしまう。  俺は羞恥のあまり顔を背けた。  さらされた首筋に、彼が口づけを落とす。自分がつけた噛み痕に、再び噛みつく。 「ああ……」  痛くない。優しく甘美な刃だ。  舌が噛み痕を舐める。彼は首筋から鎖骨へ、胸元へとキスを降らせた。小さく、赤く、ぴんと張った突起に、舌で触れる。 「はぁ……っ」  そこは、発情した時にいじってしまったところ。彼の舌は自分の指よりずっといやらしくて、俺は身もだえる。 「んぁ……、あ……ん、ふ……っ」  声が抑えられない。  もう片方の乳首を、彼が指で摘む。先端を指の腹でもてあそばれる。普段は意識もしないちっぽけな尖りが、充血して痛いくらいだった。  ようやく彼が胸を解放してくれた時には、安堵なのか失望なのか情緒がぐちゃぐちゃだった。潤んでぼうっとした頭と、敏感に求める身体とで、ただ横たわっていた。  だけど、もちろん、それで終わったりなんかしない。  テオドールは胸から下へ、腹へと舐めていく。期待してしまっている自分が、俺は怖い。 「て、テオっ、嫌だ」  上手く言葉が紡げない。  俺の小ぶりなものは反り返って下腹につきそうだ。テオドールがその上、胃の辺りを舐めているから、怖くてたまらない。  もしもそこを舐められたらどうなってしまうのか、わからなくて。  初めてじゃない。昔には経験がある、って言うべきか。だから、不安になる必要なんてないはずなのに、いまは怖いんだ。 「あ、あの、そんなに、念入りにしなくていいから。その、さらっと終わらせて」 「なぜだ?」  心外だ、と言いたげに、テオドールは眉をひそめる。  さらっと終わらせて――なんて、行為の最中に男に言う台詞じゃない。そんなの、俺もわかっている。  でも、どうしても。 「だって、あんまり気持ちいいと、怖いから」 「怖い?」  彼が獰猛な笑みを見せる。 「怖いくらい気持ちいいのか」 「え……」  逆効果、だったみたい。  テオドールは俺の太腿を撫でた。脚を開いて、間に手を忍ばせる。 「あ……っ」  彼の大きなてのひらが俺の陰嚢を包んだ。ゆっくり、確かめるように揉まれて、俺は思わず固く目を瞑ってしまう。  俺のものの先端に、あたたかく湿った舌が触れた。裏筋に添って濡らしていく。俺は気が遠くなる。  とうとう彼の口の中に入ってしまった時には、俺は息も絶え絶えだった。 「あ、んん……、う……、くぅ……っ」  彼の指先が秘所を探っている。排泄にしか使ったことのない窄まりを。  指がぬるりと滑って、中に入ってきた。 「え、な、なんで……っ?」  俺は驚いて覗き込んだ。  なんで、そこが。  濡れているんだ。  テオドールが俺の竿を離して、身体を起こした。 「あなたは本当に何も知らない」  指が深くまで差し込まれる。 「オメガは性別に関わらずその身体に男を受け入れる。つまり、こうして……」  俺は浅く指を出し入れした。くちゅくちゅと卑猥な音が鳴る。 「興奮すると濡れる」 「や、やだ、そんなのっ」 「私は嬉しい。あなたが感じてくれているという確かな証だ」  テオドールは俺の中で指を曲げ、ある一点をぐりぐり押してきた。経験したこともない感覚がそこから湧き上がる。内側が震える。 「あっ、あぁぁぁっ」  知識としてだけは、知っている。男の直腸には前立腺があって、上手く刺激すると前より気持ちいいって。 「い、嫌だ、テオドール……っ」  イくのが怖い。涙が零れる。  テオドールは苦笑した。 「泣くほどか。困ったな。まだこれからなのに」  これから。  俺は彼のものに目を走らせる。天を突く雄の象徴。俺よりずっと立派だ。  優しくしてほしいって、前に俺は彼に言った。彼はいますごく優しくしてくれている。  俺は大きく息を吸い込んだ。 「いいよ。挿れて」  彼は笑う。 「まだだ。あなたに痛い思いはさせたくない」  テオドールはもう一本指を増やした。内側を探り、深く入ってきたかと思えば、そこにしばし留まっている。それから、静かに退いて、また入ってくる。  俺を拡げているんだ。狭い門がやわらかく緩んで、準備が整う。  彼が指を抜いた。俺の腿を開いて、後孔に熱をあてがう。 「あ……、あ……っ」  テオドールは硬くて大きかった。腹まで拓かれるかのようだった。骨盤がめりめりと軋む。 「きついな……。痛いか?」  彼の額に汗が滲んでいる。  俺は頭を振る。ぎりぎりだけど、痛くはない。ただ、自分の内側に他人のものを感じる、この初めての感覚が怖かった。 「リシェ」  テオドールが俺の手を握る。  彼は最大限配慮してくれていた。紳士的に、思いやり深く、俺を貫いた。 「んぅ……、うぁぁ……」  俺が呻くと、彼は動きを止める。  それを何度か繰り返して、俺の身体も少し慣れた。  彼のものが内側の敏感な箇所を擦る。さっき彼が指で刺激した、前立腺だ。  俺は喉を反らせて身をよじった。膝が揺れた。下半身から血が逆流してくるみたいだった。  テオドールは俺の反応を窺っている。同じところをもう一回、いや、何度も擦ってきた。 「あ、あ……、んぁっ」  気持ちいい。さっきまでの不安も恐怖も溶けてしまう。  見上げるテオドールもやや眉を寄せて、よさそう(・・・・)な顔をしている。中にある硬いものがますます大きくなってきた。深いところまで侵入してくる。 「あぁ……、やぁ……ん、テオ……っ」  俺は喘ぐしかできない。もう耐えられなかった。尻が締まる。腿がわなないて、止められない。 「あぁぁ――……っ」  白濁した液体が、腹から胸まで飛ぶ。  彼が背を丸めた。 「く……!」  ああ……。  中で彼が脈打っている。二度、三度と突き上げて、彼は目を閉じた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加