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「これを棺に入れて貰えませんか」  わたしは、持って来た一冊の本をお母さんに手渡した。 「これは?」  お母さんが、思わずといった形で、わたしに尋ねた。 「これは、わたし達が出会った時に、わたしが読んでいた本です」  わたしは、正敏の顔を見つめながら、お母さんに答えた。  あの時、わたしがこの本を読んでいなければ、あの時、正敏がこの本に気付いて、声を掛けてくれなければ、わたし達は出会わなかったのかも知れない。 「正敏も、正敏さんも、この本が好きだったんです」  わたしは、それだけ、お母さんに伝えると、頭を一つ下げて、葬儀会館を後にした。  
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