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 家族葬だったけど、毎日病院に通っていたわたしは、通夜にも葬儀にも呼ばれた。 「よかったら、来てあげてね」  正敏が亡くなった翌日、病院を訪ねて来たわたしに、わざわざ病院で待っていてくれた正敏のお母さんが、優しく声を掛けてくれた。  だけど、わたしは通夜にも葬儀にも行かなかった。  どんな顔をして、その場にいればいいか分からなかったし、正しい言動を取れる自信が無かったから。  通夜が終わった夜、わたしは最後に正敏の顔を見ておきたくて、葬儀会館を訪ねた。 「ありがとう。正敏に会いに来てくれて」  正敏のお母さんは、わたしに礼を言うと、正敏が眠る棺まで連れて行ってくれた。  棺の窓を開けると、そこには、死化粧を施された生前と変わらぬ正敏の顔があった。  その顔は今にも目を開けて喋り出しそうな感じがして、正敏が亡くなったことが、わたしには実感出来なかった。  
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