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第18話 家族の在り方
「…小山さんはこれからどうしたいですか?その、旦那さんとは。息子さんのこともあると思うし。こんなこと、部外者である僕が口を挟む問題ではないと思いますが…」
ナナも心配そうに見上げる。
「いいんです、別に隠すことでもない事実だし。こちらこそすみません、変な話聞かせてしまって。話せる人がいなくて…あまえてしまいましたね。犬好きな人だからといって」
「世の中は持ちつもたれつなので、僕は全然かまわないですよ。ナナもきっと、シュンくんの代わりに力になれるならうれしいと思います」
何でも話せる友達が、彼女にはいないのかもしれない。
光はそう感じていた。
どこかピリッとして隙のない完璧な佇まい。
きっと普段から弱みを見せず、凛とした生き方を貫いてきたのだろう。
「もうこのままで割り切ってしまえば、という気持ちが9割です。でも残りの1割は…これからの長い人生このままでいいのかな…って捨てきれない気持ちもあって。できることなら、もう一度あの人の本音を聞いてみたいけど…もう無理かなって。修復できない位の時間が経ってしまった」
「そうですね、2年か…確かに長いですよね。でも小山さんはまだ大丈夫ですよ。相手は同じ家にいて、生きてるんだから。勇気を持って一歩踏み出せば、話そうと思えば話せるんですよ」
「そう、なんですけどね…。今更、何かきっかけがないと、自分からは…」
「僕の話したい大事な家族とは、もう話せません」
「えっ…?それって…」
意味深な言い方に、文子は戸惑った。
何となく、想像することは誰もが同じかと思うが。
「だから…チャンスがあるのなら…一生に一度の覚悟を持って、ぶつかってみてほしいです。息子さんのためにも。あなたにとってはもう他人と言える旦那さんでも、息子さんにとっては世界でただひとりの父親なんだから」
「そう、ですよね…。いつまでもこのままじゃいけないって頭ではわかってるんですけど…しめきりがないと行動できなくて。夏休みの宿題みたいに、期日が決まってないと私動けないタイプなんです」
「わかります、僕もしめきりがないと仕事進まないタイプで…。じゃあこの際だから決めちゃいましょう!しめきり」
「えっ?」
「ここでこうして僕達が出会えたのも、きっと愛犬シュンくんの思し召しです。家族の一員であった彼はきっと、家族がバラバラなのを悲しんでいたはずです。だから一歩踏み出す勇気を持ちましょう!今年中に、旦那さんと話ましょうっ」
「ちょっと待ってっ、今年中ってもう来月、後少ししかないじゃないですかっ。そんなの、心の準備が…第一、あの人が話してくれる保証なんてないし…」
文子は大慌てで拒絶反応を示した。
「いいですか、小山さん。相手と話したいのなら、向こうから話してくれるのを待つんじゃないんですよ。話したい人とは、まず自分から話しかけるんです。それからのことはやってみないとわかりませんから」
勇気を出して、と言わんがばかりに、ナナは膝の上で握りこぶしを作っている文子の両手に、肉球を添えた。
「ナナちゃん…」
「ナナも励ましのパワーを送っていますよ。それを無駄にはしないでくださいね」
「わかったわ…約束する。純粋な動物達の気持ちを裏切ることはできないわ」
「犬好きとして同感です」
「…気持ちが揺らいで不安になったら、またナナちゃんに会いに来てもいいかしら」
「もちろん、僕達はここで待っていますよ。ラクウショウの下で」
ナナもしっぽを振って答えた。
「ありがとう…今日ここで、あなた達に出会えてよかった。もう一度、私達家族の在り方を考えてみる」
文子はそう言って、ナナを抱きしめてから立ち去った。
太陽はいつの間にか、頭上で輝いていた。
「じっくりお話したね、お昼になったよ。ランチにしようか。ナナもちょっとおやつにしようね。今日も誰かを喜ばせることができたね、えらいね」
わんちゅーるをもらいしっぽははちきれんばかり。
「家族か…すてきな響きだね。僕にはナナが一番大事な家族だよ」
光が少しさみしそうに呟いた。
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