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第2話 気になる男の子
引越し初日。新しい街は何もかもが新鮮だ。
ナナもしっぽを振って、ごきげんに散歩している。
街路樹を抜ける風、涼やかな空気のにおい、今までとの変化を敏感に感じとっているようだ。
物件をリサーチしていた時の資料で、近隣にスーパーやコンビニ、ドラッグストアなど生活必需品の店が揃っていることは把握していたが、数字で見る距離感より、実際に町歩きしたほうが位置関係がよくわかる。
頭の中に描いていた地図が、リアルな形となって目の前に広がるのが楽しくて、光はどんどん歩みを進めていった。
「いっぱい歩いたね、少し休憩しようか。お水買ってくるね」
公園の東門の前にあるコンビニは、店舗前にはペットをつないでおくためのポールが用意されていた。
「これがあるお店は行きやすくていいね。ナナ、すぐ戻るから待っててね」
愛犬はすぐペタっと座り、おとなしく飼い主を見送った。
「いらっしゃいませ~」
入店時には明るい元気のいいあいさつ。
感じの良いお店だ。
ナナ用に常温のお水と、チルドカップのカフェオレを手にとると、すぐ横で片手にパンやおにぎりを抱えながら、高いところにある飲み物を取ろうと背伸びする、小さな男の子がいた。
年齢は小学校低学年くらいだろうか。
細身で薄汚れた制服の半ズボンから出ている足は細く、ガリガリと言ってもいいくらいだった。
「何がほしいの?取ろうか?」
声をかけられると驚いて、ハッと振り向く。
目がパッチリと大きくて、整ったきれいな顔立ちの、かわいらしい男の子。
知らない人に警戒しているのか、表情は険しいが、光のことを興味深そうに凝視していた。
上段には乳製品、ドリンクヨーグルト系が並んでいる。
「飲むヨーグルト?買うのかな」
やさしく声をかけると、やっとコクッ、とうなずいた。
「…赤い…免疫ケアのやつ…」
「これだね」
手渡すとボソッと一言、ありがと、と伝えレジに向かった。
…学校はもう終わってると思うけど…留守番の鍵っ子なのかな?
レジで商品を出すと、ホットフーズカウンターの中にあるチキンも購入。
…こんなに誰が食べるんだ?これだけ痩せてる子が、おにぎりやパンとチキンを夜ご飯でひとりで食べるんだろうか。
気になって、ずっと目で追っていた。
2台あるレジはこの時間片方しか開いておらず、光はその子の後ろで並んで様子を見守っていた。
「558円です」
小さな財布から小銭をパラパラと出すと、茶髪のギャルっぽいかわいらしい店員さんが数えていく。
「ごめんね~全部で555円しかなかった!これ全部は買えないからひとつ減らそっか~」
「えっ…でも…頼まれた分買って帰らないと…」
お店の人もその子も困っているシチュエーション。
助けたい。でもどうしようか。
いきなり知らない人が足りない分出すのもどうなのか…。
考えていると、ハッと名案が浮かんだ。
「おねぇさん、袋代3円だよね。この袋使って値引きしてくれる?そしたら買えるよね」
光は常にナナとの散歩で持ち歩いている小袋を店員に渡した。
「あっ、はいそうですね!ちょうどです!よかったぁ~」
はいどうぞ、と商品を受け取ると、男の子は再びじっと光を見つめていた。
バイバイ、と手を振ると、小さく手を振り返して出ていった。
「お客さん、ありがとうございます!ナイスな対応で助かりましたっ」
ギャル店員さんは見た目は派手だが、接客は温かい。
「お役にたててよかった。あの子ここによく来るの?」
「ええ、家が近くみたいで。いつもひとりで食べ物買ってるから、親が仕事とかで忙しいのかなぁ~って、ちょっと心配なんですけど」
「そっか…あっ、僕今日からこの街に引っ越してきたんだ。愛犬と一緒にね。このコンビニ、ロープ結ぶところもあるし、おねぇさんがすてきだからまたくるね」
「え~そんな~うれしい~♪♪私週5でシフト入ってるから、いつでも来てくださいねぇ」
明るいギャル店員はほめられてルンルンだった。
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