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周と裕司
神谷 周は、校門の前でもたれ掛かりながら校舎を眺めていた。古び、所々に苔が生えている校門に比べここ永瀬高校の校舎は比較的綺麗だ。使用されている石材も違えばそもそも建築時期もまた違うように思った。
周の前に一台の車がハザードを点灯させ停止した。
助手席側のウインドウが下がり一人の男が顔を覗かせる。
「よう。周、待ったか?」
「あ、うん。10分くらいかな。」
「おいおい、周。こういう時は、『今来たところ』だろ。そんなんじゃ、女の子にモテねぇぞ。」
白髪交じりの髪に整った顔立ち、少し古い言葉だけどきっとこういう人をイケオジって言うんだろうと周は思った。
「裕司おじさんこそ、大人は5分前行動なんじゃ?」
「お前も言うようになったじゃないか。まぁ許せ、俺もここに来るなんて、卒業して以来だからな。何だか懐かしくて、いろいろとその辺見て廻ってたんだわ。」
そう言った裕司は懐かしむように校舎側を覗き込んだ。
目を細めた裕司を少しの間周は、黙って静観していてた。それと同時に違和感を抱いた、裕司の視線は校舎から少しズレた場所をジッと見つめていたから。
「乗っても?」
「もちろん。」
周が車に乗り込むと、ゆっくりと車は走り出した。
「あんなに小さかった周がもう高校生とは時の経過は恐ろしいなぁ。学校は楽しいか?」
「そんなテンプレートみたいな言い方やめてよ、裕司おじさん。学校は…まぁ普通かな。」
「何だよ、歯切れの悪い。女は?彼女は出来たか?」裕司は小指を立て、チラリと周を見る。
「裕司おじさん、よそ見は良くないよ。あと片手運転もね。」
相変わらず、飄々とした人だ。
「彼女は居ないけど。」
「なんだ。せっかく若いんだから、もっと青春しろよな。恋人が居れば世界が変わるってもんだ。」
「恋人って…。そういう裕司おじさんこそ、どうなんだよ。もういい歳なんだから、結婚とかしないのかよ。」
「あーーやだやだ。周、お前は俺のお袋かよ。いい加減耳にタコが出来るわ。耳がタコ壺になっちまうわ。」と裕司はいつもの様にふざける。
周も高校生になってわかる。
裕司おじさんは、五十手前だけどスラッとした体型でルックスも良い、何より話が上手い。少しチャラい一面もあるが、根は紳士だと思う。きっとモテたハズだ。なのに彼は独身を貫いている。
まだ遊びたい?という風には見えない。親族の行事には必ず顔を出すし、付き合いも良い。
今日もこうして、仕事帰りに周を学校まで迎えに来てくれている。
「ねぇ、裕司おじさん。」
「なんだ、周?」
車は長いトンネルに入ろうとしている。
「何で結婚しないの?」
トンネルに入ると、一定間隔に設置してある照明が連鎖的に視界に入りチカチカする。
「おじさんなら、相手くらい直ぐ見つかるんじゃないの?」
「………。」
「………。」
束の間の無言、反響するエンジン音がやけにうるさく感じた。
「好きな子が居るんだ。」
「好きな子?」
裕司から発せられたとてもピュアな言葉に周は呆気に取られた。
「あぁ。」
「告白とかしないの?」
「まぁ、難しいだろうな。」
その時の裕司の顔はとても淋しげで、でも嬉しそうでどこか懐かしむ様な顔をしていた。
「詳しくは聞いても良かったりする?」
きっとダメだと言われるか、ふざけて煙に巻かれると周は思っていた。
「長いぞ?」
「え?良いの?」
「まぁ、俺も誰かに話したいっていうか、誰か代わりに覚えておいてもらいたいって思ってな。」
代わり?
「そうだな、あれは俺がお前と同じ高校生の頃、歳は17の事だ。」
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