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旧校舎
神谷裕司は校門の前でもたれ掛かりながら校舎を眺めていた。
裕司の前には、新設された新校舎と取り壊しが決まった旧校舎があった。既に半年前から新校舎での授業が始まり、旧校舎での学校生活が遠い昔の様に感じられていた。
思い出はまた新しい思い出で上書きされていく事の実感が何とも淋しい気持ちになった。
旧校舎には、立ち入り禁止の規制線が張られている。規制線と言っても、細い虎柄のロープが入口前に一本張られている程度の軽いものだった。
新校舎にも人がまばらな放課後、気づけば裕司は旧校舎のロープを跨いでいた。
ただ何となく、久々に入ってみたいと思った。自分が一年と少し、学友達と過ごした場所が近い内に取り壊される事への焦燥感に近い気持ちだったのかもしれない。
意外とロープの位置が高く、爪先が引っ掛かり「おっとっと」と危なく転びそうになる。
ガタッ。
入口の鍵は閉まっていた。
「くそっ。」
規制線があるからか、裕司は鍵が開いているものだと勝手に思っていた。
ここで諦めてしまっても良かったが、ふと裏口を思い出した。
裏口と言ってもそれは生徒達だけが知っている秘密の裏口で、建付けの悪い保健室のガラス窓だった。
裕司は旧校舎をぐるりと半周する。
ガッ、ガッ、ズズッ。
「よし、開いてる。」
旧校舎の中は、本当に半年くらい誰も入って居ない様に感じた。あちこちがホコリまみれで、誰も管理しなくなった学校に少し驚く。
ホコリを指でなぞり、ふぅっと吹く。
せっかく入れたんだ、少し見て回ろう。裕司はだんだんと楽しくなってきた。
懐かしむ様に、理科室、放送室、ドキドキしながらも教員室も。
二階に上り、旧校舎で最後に過ごした2年の教室に入った。
懐かしい。机とイスも処分するのだろう、そのままになっていた。
「ん?」
裕司はあるモノに気付いた。
教卓の上に何かある。
「ノート?」
そこには一冊のノートが置かれていた。それは最近置かれた物だと裕司は瞬時に理解した。
教卓にはホコリが覆っているにも関わらず、そのノートには一切のホコリが付着していなかったからだ。
「おれ以外にも誰か来たのか…。それにしても、何でノートなんか置いて行くんだよ。」
裕司はノートを手に取って表紙を捲る。
ノートには、一言『誰か応えて。』と書かれていた。
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