旧校舎の亡霊

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旧校舎の亡霊

『誰か応えて』 A4サイズのノートにその言葉だけが記されていた。 「なんだこれ。」裕司は思わず独りごちる。 改めてノートをパラパラめくり、裏面を確認したが名前らしきモノはどこにも無かった。 裕司は、うーんと唸ると鞄から筆箱を取り出して中からボールペンを手に取った。 カチッとペン先を出すと、『誰か応えて』に返事をする様に少し下あたりにペン先を走らせた。 こんな具合に。 裕司:『やぁ、こんにちは。こんな旧校舎へ来るなんて君も物好きだね。旧校舎の亡霊より。』 「旧校舎の亡霊はちょっとダサ過ぎたかな。」 しかしボールペンで書いてしまった手前どうにもならない。塗りつぶすのも何だかバツが悪い気がして止めた。 裕司はパタンとノートを閉じると「アホくさ。」と一言呟いて教室を後にした。 その後は、フラフラと旧校舎を探検したが飽きて直ぐに帰路へ向かった。 数日が経ったある日、裕司はふと旧校舎に置いてあったノートを思い出した。あのノートが後々、学校関係者に見つかったら旧校舎へ侵入していた事が露呈してしまう事に気付いたからだ。それが裕司だとはバレは無いと思ったが、取り壊しの決まった旧校舎への侵入だ、全校集会は免れないだろう。 改めて自分の軽薄さが身に染みた。 放課後、生徒が帰宅した具合を見計らって裕司は再び旧校舎へと侵入した。例の秘密の裏口は今日も変わらず開いていた。 教室へ向かう。既に教師などに回収された後かも知れないと思う自然と早足になった。 しかし、そんな裕司の心配虚しく例のノートはまだ教卓の上にあの時のまま置いてあった。 「あった。このまま回収しちゃうか。」 裕司はノートを手に取ると自然に表紙をめくった。そして、両目が今までに経験した事が無いくらいに見開いた。驚いた。 裕司の書き込んだ言葉の下に続く様に、また新たに言葉を繋げられていた。 こんな感じに。 『亡霊さん、はじめまして。応えてくれてありがとう。誰も応えてくれなくて本当寂しかった。ずっと騒がしい教室だったのに、突然静かになるんだもの。』と。 「寂しかったって大げさだな。それにコイツ日本語が少し変じゃないか?言い回しっていうか…。ふっ。」 裕司はぐるりと改めて静まり還った教室を見廻した。 「たしかに、その通りかもな。あと、亡霊さんって…。」 裕司:『たしかに、こう静まりかえると寂しいね。取り壊される学校に立ち会えるなんて、なかなか無いよな。君は何年何組?』 回収しようとしていた裕司だったが、逆にノートに返事を書いて教卓へ戻した。 何だか不思議とワクワクしていた。まさか、返事が書き込まれているなんて思いもしていなかったからだ。正直単なる誰かのイタズラだと考えていた。 次の日も裕司は放課後に、旧校舎に忍び込んだ。 「おっ、返事来てる。」 『凄く静か。ここは取り壊されてしまうの?だから誰も来なくなったの?亡霊さん教えて。』 「コイツは、旧校舎が取り壊される事を知らないのか?」 そんな訳は無いと思いつつも裕司はまたペンを取り出すとノートへ返事を書いた。 裕司:『ここはもうすぐ取り壊さるぞ。見れば分かるだろ。君はここの生徒じゃ無いのか?』 決して多くはないが、彼らは言葉を交わした。 また次の日も裕司は旧校舎を訪れた。 返事は…。 「来てる。」 『そうですか。ここは取り壊されるんですね。とても寂しい事ですが、これはきっと仕方の無い事なんでしょうね。亡霊さんに一つだけお願いをしても宜しいでしょうか。』 こう何度も、亡霊亡霊書かれていると何だか笑えてくる。 「この子、変だけど面白い子だな。」 裕司は、何となくノートの向こう側の相手は同年代くらいの女の子だと思うようになっていた。 裕司:『俺もここが無くなっちゃうのは正直寂しい気持ちもあるよ。だから君の気持ちも凄く分かる。お願い?』 そう書いた裕司も、この旧校舎にはたくさんの思い出があり、相手の気持ちも当然に理解が持てた。 『この校舎が取り壊されるまでの間、どうか私のお話し相手になってくれませんか?わがままを言ってごめんなさい。』
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