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運命は
裕司は翌日、学校中を駆け廻った。
しかし、中瀬 まゆみなる生徒はこの新校舎のどこにも存在して居なかった。
教員にも聞いて廻ったが、そんな生徒は居ないと言われた。
既に取り壊しが始まった旧校舎を彼は呆然と眺める事しか出来なかった。
「とまぁ、こんな事があったんだよ。」
裕司おじさんは、懐かしむような笑顔で言った。
「何か少しオカルティックな話しだね。」
これは少し失言だったかもと周は言った後に思った。
しかし、おじさんは「でも彼女は確かに居たんだ。たった一時くらいしか一緒には居られなかったけどさ。今でもあのノートと駄菓子の袋は大事に閉まってあるよ。」
そう言ったおじさんはやっぱり少し寂しそうだった。
周はとても複雑な気持ちになった。この思い出話が美談とは思えなかったからだ。
青春時代のたった1時間が……そのたった一冊のノートが、その後のおじさんの一生を縛り付けているように感じたから。
身近な人には幸せにになって欲しい、ただ純粋にそう思う周には少し辛かった。
でも同時に、それだけの衝撃的な出会いでもあったんだとも思う。
「おじさん今日は送っくれてありがとう。また宜しく。」
「ああ。今日は長話に付き合ってくれてありがとうな、周。」
車は走り出すとあっという間に見えなくなった。
あれから数ヶ月経ち、周も進学に向けて本格的に学校や塾やで忙しい日々送っていた。
おじさんのアノ話を思い出す機会も少なくってきたある日の事だった。
それは母親から伝えられた。
「周。裕司おじさん、入籍したそうよ。」
結婚の知らせだった。
人に話す事で自分の気持ちに折り合いをつけたのか、はたまた例の旧校舎さんと再会を果たしのかは分からない。
でもこれだけは言える。
あんな彼に結婚を決断させた相手がいるのなら、それはきっと運命としか言いようが無いと。
周は、心待ちする。
次に会える日を。
「ねぇ、母さん。式はいつなの?」
おわり。
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