あいと目覚め

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あいと目覚め

「あ……あっ……はぁっ……!」  自らの口から漏れる甘い喘ぎ声はもはや聞き馴染みがあると言えるほど聞いたが、自分から斯様な声音が出てくるという事実に智尋は未だ慣れない。  自分の内で動く玖藍に合わせて勝手に溢れる声の滑稽さに萎えやしないかと口を手で覆う智尋に、玖藍は必ずその手を剥がし、指を絡めて自身の手と繋ぎ合わせる。  最中に手を握られるとなんとも言えぬ嬉しさがこみ上げ、智尋はこの形だけとなった儀式を欠かさず行うようになった。 「は、あぁっ、あんっ! ああっ!」  快感が背筋を走り、その領域を体中に広げていく。  体はもう智尋自身の言うことを聞かず、淫靡な音と動きを繰り返すばかりだ。  それによって更にもたらされる快楽の向かう先、そこに踏み入れてしまえば、もう戻ることなどできないと本能で察する。  しかし本能の恐怖など、すがるように握った手を握り返してくれる感触だけで溶けてしまう。 「智尋」  名前を呼ばれたと気づいて目を開けると、眼前にある藍色の瞳から目を離せなくなる。 「あっ、くらんっ! イクッ! あ! あああああ!!」  快楽に吞み込まれて全身が痙攣し視界が真っ白になった。  だというのに、瞼の裏に藍だけが焼き付くのを感じながら智尋は意識を手放した。
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