僕と屋上の天使様

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 ***  その女性はスーツを着ていて、多分二十代後半とか、それくらいの年齢であるように思われた。まあ、当時の僕からすると、高校生以上の男女はみんな“大人の人”と同じような括りに見えていたから、実際はもう少し上の年だったのかもしれないが。  彼女は僕が此処に来たことに、心底驚いているように見えた。が、僕も数秒遅れて慌て始めたのだ。そういえば、ここには入ってはいけないと言われていたのだと。そして、入ったのが見つかったら大人の人に叱られる、と。 「ご、ごごごごごごごごごめんなさい!」 「え、え?なにが?」 「お、屋上に入っちゃいけないって言われてて、で、でも、校庭で遊べないし、お、屋上探検するのも楽しそうだし、みんなで遊べたらいいなとか、とりあえずそういうことを考えていたというかなんというかその、えっと、あの……」  言い訳しようにも、結局本当のことをべらべら喋ってしまっただけのような気がする。  相手は美しい天使様だ。きっと、僕がこんなところに入ったのを知ったらきっと怒るだろう。そして。 「あ、あの、その、何か悪いことしようとしたわけじゃなくて。……だから、神様の、かみなり、落とさないでほしいんだけど……」  アニメでは、天使様が悪い子だと判断した子には、容赦なく神様に頼んで雷を落として貰っていた。真っ黒にコゲコゲにされるのはとても痛そうだし、真っ黒こげにされてしまったら叱られたのがバレてしまう。さらにお母さんや、先生に叱られるのは必死だ。できればそれは避けたいと僕は必死だったのである。 「……ああ、そういえば、ここ立ち入り禁止だったわね」  やっと話が繋がったらしい。天使様は呆れたように笑った。 「私もこっそり入ってたから、忘れてたわ」 「え?天使様も、入っちゃいけなかったの?」 「誰も基本的には、許可がないと誰も入ってはいけないの。私も許可は貰ってないから、入っちゃいけないのは同じね」  ていうか、と彼女は眉をひそめる。 「その“天使様”っていうの、ナニ?」 「え、違うの?お姉さん、僕が見てるアニメの天使様そっくりなんだけど……。天使様は、地上に降りてくると翼をしまっちゃうから、翼がなくてもおかしくないんでしょ?」  違うの?と僕は少ししょんぼりしたのがわかったのだろう。彼女は少し考えた後で、そうなの、と言った。 「まあ……そうね。でも、私も、神様に内緒でここにいるの。だから、私が此処にいること、貴方も内緒にしてくれる?」 「そうなの?じゃあ僕と一緒だ!僕もね、こっそりここ入っちゃったから!……でも、天使様って、悪いことしないんだと思ってた。だから、僕が悪いことしたら、雷落として怒るんじゃないかって……」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加