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その女性はスーツを着ていて、多分二十代後半とか、それくらいの年齢であるように思われた。まあ、当時の僕からすると、高校生以上の男女はみんな“大人の人”と同じような括りに見えていたから、実際はもう少し上の年だったのかもしれないが。
彼女は僕が此処に来たことに、心底驚いているように見えた。が、僕も数秒遅れて慌て始めたのだ。そういえば、ここには入ってはいけないと言われていたのだと。そして、入ったのが見つかったら大人の人に叱られる、と。
「ご、ごごごごごごごごごめんなさい!」
「え、え?なにが?」
「お、屋上に入っちゃいけないって言われてて、で、でも、校庭で遊べないし、お、屋上探検するのも楽しそうだし、みんなで遊べたらいいなとか、とりあえずそういうことを考えていたというかなんというかその、えっと、あの……」
言い訳しようにも、結局本当のことをべらべら喋ってしまっただけのような気がする。
相手は美しい天使様だ。きっと、僕がこんなところに入ったのを知ったらきっと怒るだろう。そして。
「あ、あの、その、何か悪いことしようとしたわけじゃなくて。……だから、神様の、かみなり、落とさないでほしいんだけど……」
アニメでは、天使様が悪い子だと判断した子には、容赦なく神様に頼んで雷を落として貰っていた。真っ黒にコゲコゲにされるのはとても痛そうだし、真っ黒こげにされてしまったら叱られたのがバレてしまう。さらにお母さんや、先生に叱られるのは必死だ。できればそれは避けたいと僕は必死だったのである。
「……ああ、そういえば、ここ立ち入り禁止だったわね」
やっと話が繋がったらしい。天使様は呆れたように笑った。
「私もこっそり入ってたから、忘れてたわ」
「え?天使様も、入っちゃいけなかったの?」
「誰も基本的には、許可がないと誰も入ってはいけないの。私も許可は貰ってないから、入っちゃいけないのは同じね」
ていうか、と彼女は眉をひそめる。
「その“天使様”っていうの、ナニ?」
「え、違うの?お姉さん、僕が見てるアニメの天使様そっくりなんだけど……。天使様は、地上に降りてくると翼をしまっちゃうから、翼がなくてもおかしくないんでしょ?」
違うの?と僕は少ししょんぼりしたのがわかったのだろう。彼女は少し考えた後で、そうなの、と言った。
「まあ……そうね。でも、私も、神様に内緒でここにいるの。だから、私が此処にいること、貴方も内緒にしてくれる?」
「そうなの?じゃあ僕と一緒だ!僕もね、こっそりここ入っちゃったから!……でも、天使様って、悪いことしないんだと思ってた。だから、僕が悪いことしたら、雷落として怒るんじゃないかって……」
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