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「天使だっていつもいい子じゃ疲れちゃうのよ。だから、時には入っちゃいけない屋上に入ってみたりとか」
「そうなんだ!」
なんだか、親近感がわいてしまった。
僕が見ているアニメの天使様より、ずっとニンゲンっぽい感じがする。いつもいい子でいたら疲れちゃう――というのは、クラス委員の子もこっそり言っていた言葉である。
「じゃあ、僕達どっちも悪い子だから、僕のことも内緒にしてくれるの?」
「ええ、いいわよ」
彼女はちらり、ともう一度外を見て――なんだか興がそがれたというように、フェンスにもたれて座り込んだのだった。
「ねえ、貴方。名前はなんていうの?さっき、校庭で遊べない、って言ってたけど」
「あ、僕、摩央!朝倉真央!」
天使と知り合いになれる機会なんて滅多にない。僕もなんだか嬉しくなって、天使様の隣に座った。お姉さんは結構背が高かったので、体育座りをして並ぶと彼女の顔を大きく見上げなければならなかった。当時の僕が、小学一年生の中でもかなり小さいほうだったというのもあるが。
「あのね、天使様。校庭がね、せっまいの。みんなで遊びたいんだけど、五年生とか六年生の人達が校庭いっつも使ってて、全然使えないの。本当はドッジボールとかやりたいけど、ボールもみんな使われちゃってて」
「それ、先生には言ったの?」
「言ったけど、何にもしてくれなくて。……槇村先生、なんか、あんまり僕達のこと好きじゃないのかな」
「あー……あの先生か……」
どうやら天使様は、槇村先生のことを知っているらしい。少し考えた後に、いいわ、と頷いたのだった。
「……私から校長先生にお話しましょうか。ここの校長先生、知り合いなのよ」
「ほ、ほんと!?」
「ええ」
「やったあ!天使様、ありがとう!」
思わず抱き着いてしまって、やっちゃった!と僕は焦った。小さな頃から、ちょっと好きになった大人の人にはすぐに抱き着いてしまう悪い癖があったのだ。彼女は結構目をまんまるにしていた。ごめんなさい!と慌てて離れる。
「ごごごご、ごめんなさい!お、大人の人はすぐくっついたらだめなんだよね……」
「……いえ、気にしてないわ」
彼女は一体、何を思っていたのだろう。
小さな沈黙に、何をこめたのだろう。
もうすぐ昼休みの時間が終わる。僕は慌てて立ち上がりながら彼女に言ったのだった。
「ねえ、天使様。また会える?」
僕の呼びかけに、彼女は少し考えた末、言ってくれたのだった。
「ええ。……また、ここでね」
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