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彼女は本当に、校長先生に話してくれたようだった。
槇村頼子先生が渋々語るに、校庭を何年生が使うか、というローテーションを先生達で決めてくれたらしい。彼女はその皺が多い顔に、明らかに“こんな仕事を増やさないで頂戴”と書いてあったけれど――僕は無視した。これで、一週間に一度くらいは、みんなで校庭で遊ぶことができることだろう。
「天使様、ありがとう!」
槇村先生からその話があった日の昼、僕は再び屋上に行った。天使様はやっぱりフェンスの前に立って、僕のことを待ってくれていた。
「気にしないで。……貴方も災難だったわね。よりにもよって槇村先生のクラスだなんて」
「よく知ってるんだね」
「槇村先生って事なかれ主義……ようは、やる気がない先生ってことで結構有名だから。生徒からそういう訴えがあったら、ちゃんと職員会議で上げないといけないのに……。まあ、校長先生が鶴の一声を発したから、状況が動いたってこともあるんでしょうけど」
「校長先生にお願いできるなんて、やっぱり天使様はすごいんだね!」
「……何も。凄くなんかないわよ」
なんだか、今日の天使様は僕に話を聞いてほしそうな気がする。そう思って、僕はこの間と同じようにちょこん、と彼女の隣の地面に座ったのだった。
「天使様!天使様が僕のお願い聞いてくれたから、今度は僕が天使様のお願い聞く番!なんか、相談とかある?僕、できることなんでもするよ!」
子供なりの正義感。同時に、天使様の友達になりたいという気持ちが先行して、そんなことを言ったのだった。
すると彼女はちょっとだけ泣きそうな顔をして、それなら、と話を続けたのである。
「……少しだけ、私の話を聞いてくれる?」
「いいよ!なあに?」
「私ね。……本当は……天使、じゃなくて。学校の先生になりたかったの」
ここ数日、良い天気が続いている。空は抜けるような青空だ。彼女はどこか眩しそうに空を見上げた。
「でも、学校の先生になる試験に落ちてしまって。……就職先もなくてね。そしたら……この学校の校長先生が誘ってくれたの。この学校を守る天使のお仕事をやらないかーって。この学校の校長先生、私の遠い親戚だから」
「校長先生すげー!天使様の親戚がいるなんて!」
「ふふふふ、そうね。……でも、天使のお仕事って地味なのよ。パソコンを見て、電話取って、たまに来るお客さんの対応をするくらいなんですもの。……しかもね、嫌なものをたくさん見てしまうわけよ。さっきの槇村先生もそう。やる気がない、生徒のこともちゃんと見ない、イジメっぽい話があっても放置する。そういう先生もたくさんいて……時には、先生同士でいじめをすることもあるのよ」
だからね、と俯く彼女。
「なんでそんな人が先生をやれているのに、私は先生になれないんだろうって。いっぱい勉強したのに、この人達より何が足らなかったんだろうって。そう思ったら、もう何もかも嫌になっちゃって。……貴方と会った時ね。この屋上から、空へ飛んで逃げちゃおうかと思ってたわけ」
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