僕と屋上の天使様

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僕と屋上の天使様

 それは、僕がまだ小学校に入ってすぐの頃のことだった。  かなりの悪戯小僧だった僕は、大人に“やっちゃいけない”と言われることは何でもやりたがったし、入ってはいけないと言われるところほど入りたがったものである。  学校の屋上なんて、まさにそういう場所だった。子供は入るなと言われたが、入るなと言われると探検したくなるものである。ましてや僕達のボロボロの公立校はお金もなくて、屋上へ続くドアの鍵も壊れっぱなしになっていたから尚更に。 「おじゃましまぁす……!」  四月には、僕はこっそり屋上に侵入を果たしていたのだった。叱られたら謝ればいいや、くらいの認識である。  ひょっとしたら、先生達は屋上を何かの目的で使ったりしていたのかもしれない。思ったよりも屋上は綺麗で、緑色の床?地面?にも砂や埃が積もってるとか、フェンスが錆だらけなんてことはなかった。  これなら、友達と遊ぶこともできそう、なんて思ったのである。うちの小学校は校庭が狭くて、子供が遊べるスペースが非常に少なかったのだ。特に上級生がサッカーやドッジボールで独占してしまうことが多く、下級生はなかなか使わせてもらえなかったのである。  もちろん、ちょっと考えれば屋上で鬼ごっこやボール遊びなんてやったら危ないに決まっているのだが。生憎、当時の僕は幼稚園を出たばっかりのクソガキだったわけである。そんなことまで考えられる頭なんてない。ボールを地面に落としたらどうなるか、とかそんなこと想像できたわけもない。  だから遊び場所を確保できたらとか、探検できたらとか、そういうことしか頭になかったのだ。 「あ」  僕は目を見開いた。  まさか屋上に、先客がいるとは思わなかったからである。  その人は長い黒髪をなびかせて、フェンスを掴んでじっと遠くを見つめていた。とてもきれいで、僕はその背中に翼があるように見えたのである。  だから。 「てんしさま?」 「え?」  僕はその人が、天国から舞い降りた天使様のように思えたのだ。丁度その頃、天使が主人公を努めるアニメをやっていて、そのヒロインに彼女がそっくりだったというのもある。
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