第30話 のこり5日4 窓の向こうの人のことを考える

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第30話 のこり5日4 窓の向こうの人のことを考える

 そうです、とメルダはうなづいた。 「名前を変えて隠れている方も居るはずです。国外に出てしまったなら何ですが…… そういう中で心ある方なら、シリア様の救出に手を貸していただけるでしょう」 「判った。すぐに戻って過去の記録から照会してみよう。そして何よりも、毒の特定だな」  私達は揃ってうなづいた。 * 「お嬢様」 「……」 「マリアお嬢様!」 「え?」 「黙り込んでおしまいになって! 今夜のお食事ですがどうなさいますか? お部屋で? それとも厨房でなさいますか?」 「……」  私は少し考えた。  空は青いし鳥の鳴き声は美しい。  そしてちらと目だけで本宅の窓を見ると、やはり誰かしらの姿がある。 「お母様か、エリアお姉様、どちらかと二人で食事が摂れないものかしら」 「え? そりゃ、まあ、奥様ならお断りすることはまず無いとは思いますが…… エリア様は如何でしょう。あちらの棟の係と話をつけてみないと」 「そこなのよね」  ふう、と私はため息をついた。そしてつ、と顔を上げた。  窓の側に居る人物の方をあからさまに向く。 「私、エリアお姉様ときっちり話したことが無いのよね」 「それはまあ、向こうの方がお望みにならなかったことですし……」 「でも、この先どうするとかどうなるとかの話は、しておかなくてはならない気はするのよね」 「マリアお嬢様」  イレーナは足を止めた。 「まだそれは早いと思います。シリア様をお助けになりたいということは、ひいては旦那様を」  そこでイレーナは言葉を切った。  言いたいことは判っている。  要するに自分達がやっていることは、お父様を、侯爵を切り捨てることなのだ。 「マリアお嬢様は既にお覚悟ができていらっしゃるし、私もお小さい頃からの仲です、何があっても付いていきます。ですが、奥様とエリアお嬢様は果たして」 「そうよね」  ふう、とため息をつく。 「ただ、お母様であれお姉様であれ、お父様に対する気持ちを知っておきたいと思ったのよね」  正直、エリアお姉様がお父様を好いているとは思えない。  と言うか、見下してはいるかもしれない。  だけどそれはシリアお姉様に関しても同じで。  いや、身分であれ、前夫人に恥をかかせた女の娘ということで、憎んでいてもおかしくはない。  ただそれは推測に過ぎない。 「いずれにせよ私達、ファゴット子爵が突き止めてくれるまで、わずかだけど時間があるのよ。できることはしたいわ」  わかりました、とイレーナは言った。
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