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第33話 のこり4日1 エプロンにはポケット
「マリア!」
朝から離れの方へとイレーナと一緒にふらふら歩いていると、作業している体のイルドが走ってきた。
「どうしたの?」
「子爵様からの伝達」
そう言って彼は私に手紙を渡した。
開くとこう書いてあった。
『本日中に特定。明日持って行く』
「明日ね…… 実物かしら、内容かしら」
「実物を持ち出すのは危険だと思うよ」
「でも実物の方が、きちんとした毒消しの実験がしやすいのよね」
「マリア様、それをご自分でなさるおつもりですか? もしそれが飲むだけでなく、手に付いたらまずいというものでしたら……」
「大丈夫」
それに関しては、以前マンダリンの近くでシリア姉様と学んでいた時に、豚の腸と油紙を合わせて作った手袋をはめる様に言われた。
水を弾くなんて凄い、と驚いたものだ。
「楽観的に考えれば、手についてどうこう、という類いではないと思うわ。それだったら、まず医者や薬屋はそう簡単に扱わせない。出回らない様にすると思う」
「でなきゃ、いっそ顔にそういうものを振りかける系?」
「物騒なこと言うわね」
私はぽん、とイルドの胸をげんこで叩いた。
「何にしろ、俺は子爵様からの方に戻るよ。また急ぎがあったら来るから」
「よろしくね」
さっとイルドは引き返していく。
私は私で、できるだけ手紙を揉んでくしゃくしゃにし、文字のインクが擦れて見えない程にしてしまってからもう一度封筒に入れ、イレーナのエプロンのポケットに入れた。
「こうやってみると、服にポケットがついていないというは不便ね」
「そう言えばそうですね。でもまあ、皆私のようにエプロンにはついているからいいと思うのではないてすか?」
「そう?」
「だってそもそもエプロンにしたところで、下の服を汚さないためのものですし、その下の服にはポケットはございませんけど、私はそれで不自由してませんし」
「でも私はエプロンを普段する訳ではないわ。小さな頃ならともかく」
そう、まだ森の家で暮らしていた時には、すぽっとした服の上に、袖以外全部を覆うようなエプロンがいつもつけられていた。
私は常によくあちこちでころころしてくるので、服が汚れるから、とばあやが縫ってくれたのだ。
あれには大きなポケットがついていて、キャンデーを幾つか入れたり、帰りに木の実を入れたり、実に色んなことに役だってくれた。
今でもあると便利だな、と思う。
マンダリンは時々服全体、袖のところひらひらしない様に紐で締めることができる様な作業着をつけていた。
そう言えば、確かにそれにもポケットがついていた。
「そのためにご令嬢達は可愛らしい小袋を持つのではないのですか?」
なるほど。私は令嬢達とは交流が無いからその辺りに気付かなかった。
そしてふと、一つのことを思いついた。
「エリアお姉様に聞いてみましょうか」
え、とイレーナの顔が引きつった。私はちら、と窓の方を眺める。今は誰も居ないようだ。
「別に良いのじゃない? 令嬢として相応しい持ち物として、エプロンのポケットの代わりになる様なものを聞いてみたって」
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