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序 処刑のための逮捕
「バスタゼイリア侯爵令嬢シリア、貴女を第一皇女殿下に毒を盛った罪により逮捕いたします」
その日、我が家へ唐突な訪問者がたくさん現れた。
彼等はどかどかと屋敷の廊下を突っ切った。無作法だわ、と私は思った。だけどそれだけならまだよかった。
彼等は居間の扉を開けると、ぐい、と逮捕状を突きつけそう言い放った。
「小姉様?」
私は呼ばれて即座に立ち上がったたひとを仰ぎみた。唇をぐっと噛んで悔しそうな顔だ。
「……何と、お前、何ってことをしたんだ」
お父様は小姉様――シリアにそう怒鳴りつけた。
「ああ何ってこと! 我が家からそんな恥知らずが出るなんて!」
私の対面に座っていた大姉様がその場にへなへなと崩れ落ちた。私達はこの日、大姉様の縁談について、家族で話し合っていたのだ。
「ああ何ってことだ…… して、娘の過ち、我々にも何かしらの取り調べがあるというのだろうか?」
「まだその辺りは」
使者の方は、短くそう言い、連れて行け、と部下に命じた。
「小姉様!」
「心配しないで、マリア」
黒くしっとりとした長い髪をざっと揺らせ、後ろ手を縛られたシリア姉様は連れられて行った。
きっとこの後取り調べがあって……
ああ大変だわ。
だってほら、お父様も大姉様、エリアもその場にかがみ込んではいるけど、ほくそ笑んでいるじゃない。
とんでもない!
*
その一週間後、我が家にシリア姉様の「毒には毒を」な処刑が行われたことが告げられ――
私はこの家から飛び出した。
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