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アンジェリカ・ケイスケイ
その人はとんでもなく色男だった。
歳は30くらい。暑い日も寒い日も、いつも紺色の着流し姿。左目尻下にある小さなホクロ。
その男がこの町に来たのは、戦争が終わり半年ほど経った頃。いつの間にかお寺近くの空き家に住み着いていた。
その男は薬草に詳しく、採取した薬草から薬を作ることができた。それを怪我人や風邪を引いた人に無償で提供した。最初は疑心暗鬼だった町の人々も、薬の効果が本物であると気づくとすぐに男を受け入れた。
本人の意思とは関わらず、男の周りにはいつも世話を焼こうとする女がいた。ミヤの姉もそんな女のひとりだった。姉はその男にたいそう熱を上げていた。
そして本当に熱を出した姉に薬をもらうため、その日、ミヤは男の家に向かった。
冬、太陽が傾きはじめた頃。林を抜け、男の家に着き、戸を叩く。だが返事はない。留守のようだった。
仕方なくミヤは来た道を戻る。薄暗い林に再び入る。
カサカサと枯れ葉の山を踏み歩いていると、後ろからもうひとつ、カサカサと足音がする。その足音は段々と近づいてくる。振り返ると、大股で5歩ほど離れたところに見知らぬ男が立っていた。中年小太りの、薄汚れた服を着た男。手には鎌を持っている。その顔は無表情に、ミヤを静かに見据えている。
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