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すぐにミヤは走り出した。これは危険な状況だと本能が警鐘を鳴らしていた。だがカサカサ、ガサガサいう足音は、ハアハアと荒く上がった息は、あっという間に近づいて来る。ミヤはただただ前を見て全速力で走った。
だが。
あーッ!
男の叫び声が背中から聞こえ、それがなぜか遠ざかっていく。そこでミヤはやっと立ち止まり、振り返った。
男がうつ伏せに倒れ、恐怖の顔を浮かべ、こちらに向かって手を伸ばし、引きずられていく。何事かと目を凝らすと、男の足にツルが絡まっている。そのツルが男を林の奥へと引き込んでいるのだ。
カサササと枯れ葉を巻き上げながら、あーっ!あーっ!と声をあげながら、まもなく男の存在はミヤの視界から消えた。
ミヤが腰を抜かしその場に座り込むと、どこからか紺色の着流し姿の男が現れた。それはミヤが求めていた男だった。
男はゆったりと歩き、ミヤのそばへ。
「ミヤちゃん大丈夫?怖かったね」
「お、おじさん……」
「もう大丈夫だよ」
優しい目をしたその男は、ミヤにそっと手を差し出す。ミヤはその温かい手を取り、体を起こした。身体中から気持ちの悪い汗が吹き出していた。
「あの人、なにが起きたの?」
「神様の怒りを買ったんじゃないかな」
「……」
消えていった方向を睨みつけるような、男の左目の下の泣きぼくろ。ミヤはしばらくそれをぼうっと見ていた。
拾いあげた鎌をゆらゆら揺らしながら歩くその男と一緒に、ミヤは再び林を抜け、男の家へ。そこに座ってと言われた通り、ミヤは小さな家の隅に正座した。
「ミヤちゃん。お姉さん、熱だけ?咳や鼻水は?」
「咳が出てる」
「わかった」
男は棚からいくつか紙袋を取り出して、その中身をパラパラと深皿に出し、混ぜ合わせはじめる。
ミヤは簡素で掃除の行き届いた部屋の中をキョロキョロ見回しながら、男に聞く。
「今日はお世話の女の人きてないの?」
「おととい鎌男が現れたって聞いてね。危ないからしばらくは来ないように頼んだんだ。早く見つかってよかった。ミヤちゃんには怖い思いをさせちゃったけど……そうだ、明日木曜日はミヤちゃんのお姉さんの日なんだけど、無理してこないよう、家でちゃんと休むように言っといてくれる?」
「女の人、曜日制だったんだ……」
「俺がいない間に彼女たちが話し合って決めてたんだよ」
「おじさんモテモテだね。結婚しないの?」
「俺には結婚なんて。する資格がないからなぁ」
「それなのに女の人はべらせてるの?」
男は苦笑いする。
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