(燈吉の場合)

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(燈吉の場合)

 僕は家を飛び出した。擦り切れた運動靴は、地面を直接蹴っているかのように底がペラペラだった。  東京が、ここから走ってどのくらいかかるか知らない。でも、と踏み出した足の前に、大人の靴が4、5人分立ちはだかった。 「もうちょっと待ちなさい」 「いつのまにそれを知ったんだ」 「約束を守れない子はいい大人になれないよ」  なぜだ。  母ちゃんは今にも息が止まりそうなんだ。父ちゃんに会わせたいと思って何が悪いんだ。もうちょっと待てって、何でも今すぐやるのが一番じゃねえのか。  
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