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プロローグ
「玲子さん、その……
俺、玲子さんに捧げたいんだけど……」
「はぁっ? 何を?」
「その、俺の身も心もすべて玲子さんに
捧げ……」
「ちょっと~、海くん何言ってんの?」
「え? えっとぉ~、だから玲子さんが
大好きだから……玲子さんとなら」
「要するに……男女の関係にってこと?」
「そう、俺昔から決めてたんだ。
大人になったら最初は絶対に
玲子さんとって……」
無邪気な笑顔を見せた海とは裏腹に、
彼のあまりにも唐突な言動に呆れた玲子は、
下を向いた。
「ん? 玲子さん? どうしたの?」
ドン……。
下を向いたまま玲子の拳がテーブルを叩いた。
「ひやっ……」驚く海に玲子は顔を上げると、
「おい、海……子供と思っていたのに
いつの間にかませたことを言うように
なってからに……。
あのね、普通こんなことは面と向かって
言わないもんなの……ったく、これだから
年下の男は……」玲子が呟いた。
「玲子さん、ごめんよぉ~。俺、告白はされても
付き合ったことないから、どうしていいか
わかんなくて。
その……ごめんなさい」頭を下げた海。
「ふふふ……」
玲子の声に頭をあげた海の前には、
頬杖をついた玲子がニコニコと笑っていた。
すると、玲子は海の襟元を掴むと、
ぐっと自分の方へ引き寄せ、
「君はまだ十九歳、法律上では大人でも
もし君となんかあったら、
私は捕まってしまうかもしれないことをご存知?
名実ともに海くんが大人の男になったらね……」
と言うと彼の顔に自分の顔を近づけ優しく
微笑んだ。
「わかったよ……
じゃあ、俺が大人の男になるまで待っててよ」
と海が呟いた。
「うん。私、年取ってるかもしれないけど
約束するよ」
「うん、約束……」
海が小指を差し出すと、玲子は自分の小指を
海の小指にそっと絡ませた。
山川海、十九歳の秋だった。
あれから、七年……
俺は、彼女の後を追うように警察官となり、
警視庁公安課所属、潜入捜査官となった。
玲子さん……俺は、今も昔もあなたのことが
大好きだと心の中で海が呟いた。
「あてっ……何すんですか」
「ちょっと、何黄昏てるのよ。行くよ」
デスクに座る海の頭を玲子が小突いた。
「ちょっと、待ってくださいよ」
海は椅子から立ち上がると、彼女の後を
追い駆けて行った。
「アイツ等相変わらずだな……なんか進展あった
ようには、見えませんよね」
二人を目で追いながら東栄太が呟いた。
「そうだな……あの事件後、まさか彼が
警察官になって我々の下に配属になるとは」
公安課課長の如月が微笑んだ。
「七年ですか……早いですね」
東が懐かしそうに呟いた。
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