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すぐに、街に溶け込んだ市原に対して
東は、客引きの人々から逃げるように
観光通りを後にした。
「はぁ……噂にには聞いてたけど。
客引きの数……ハンパねぇな……
現地の言葉は、まったくわからないし、
相手もそれをわかって寄って来る。
山川も横石もよくこの土地で潜入できたな。
俺は、外国での潜入は向いてない」
一人小さな溜息をつく東。
「こんなことなら、市川と一緒に
行動するべきだったな。
カッコつけて、互いに単独行動で……
なんて言わなきゃよかった」
通りの一角に設置してあるベンチに
腰を下ろした東。
すると……
「お兄さん、大丈夫?」
男が英語で東に話かけたきた。
新たな客引きか……? そう思った東は、
「あぁ、なんとかね。ご心配ありがとう」
英語で答える東に男は、
「お兄さん、観光? それとも留学生?」
と尋ねた。
何だ……こいつ。やけに慣れ慣れしいな。
東はそう思ったが、にこやかな表情で、
「残念、ふたつとも違うよ。
俺は、『ワーキング・ホリデー』短期間だけど」
と答えた。
「ふぅ~ん。そうか。
ところでお兄さんは、東洋人?」
と男が尋ねた。
「そうだよ。なんで?」と聞き返す東。
「いいや……
俺の友人にも東洋人がいてさ。
そいつ、物凄くいい奴なんだ。
だから、東洋人のあなたを見て
つい声をかけてしまったって訳」
「ふぅ~ん。そうなんだ。
で、その東洋人の友人ってのは?」
「色黒の、髭を生やしたワイルド系
とでも言っておこうか。
今日はその友人等と買い物に来たんだ」
男が微笑んだ。
「東洋人のワイルド系の友人か……
ところでひとつ聞いていいかな?
この街から少し離れた港街、
そこから荒野を越えた場所にある
街のことなんだけど」
東が尋ねると男は、
「荒野を越えた街のこと?」
と聞き返した。
「ほら、ここに載ってるでしょ?
なんかこの荒野の写真が凄いから
どんなところかなぁ~って思って」
東は、観光案内の本のページを
めくり男に見せた。
すると男は、
「あ~確かに荒野の写真はすごいけど。
あんた一人での観光はやめたほうがいいよ。
それにほら、これは観光案内ではなく
危険を知らせているページだからね」
男がページを見ながら呟いた。
「あ~やっぱり、この国の言語で
説明してある観光本は持ってても
無意味だぁ。それに俺の言語能力最悪じゃん」
東が日本語で呟いた。
ブツブツと独り言を言う東に男は、
「仕方ないよ。あ、じゃましたね。
いい日になりますように」
と微笑むと男は東のもとから立ち去った。
彼の後ろ姿を見送った東もベンチから
立ち上がり、宿泊先のホテルに戻って
行った。
「ハリス、どこに行ってのよ。
ジンと二人で探してたのよ」
ハクが駆け寄ってきたハリスに言った。
「ごめん、ごめん。
今さ、そこで東洋人の男を見かけてさ、
なんかそいつ言葉わからず途方に暮れてた
みたいだったから話かけてたんだよ。
いいヤツぽかったぞ」
ハリスがハクと海の顔を見ながら言った。
「ふぅ~ん。東洋人も色んなのが
いるから……でも、案外ジンの
知り合いだったりして……」
ハクが微笑んだ。
「はは、それならいいんだけどな。
それより、腹減った。
せっかく大きな街に出て来たんだ。
メシ……メシ食おうよ」海が呟いた。
そんな海の顔を見たハクとハリスは、
顔を見合わせるとニコッと微笑んだ。
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