21人が本棚に入れています
本棚に追加
きな臭い
裏通りの店に男と入った市原、
カウンターに座るとバーテンから出された
ショットグラスを握った。
「市原、何年ぶりだ?」
男が尋ねると、
「七、八年ぶりかな」と市原が答えた。
カチャン……二人はショットグラスを
重ねると、ニヤッと微笑み互いに
つがれた洋酒を飲み干した。
「くぅ……」
久しぶりに口にする酒に市原は
顔を歪めた。
すると、男は不思議そうに
「なんだ? 市原、これくらいの酒で」
と言うと市原は、
「禁酒だ……訳あって酒は数年口にしてない」
と男に言った。
刑務所にずっといたんだから、
酒なんて口にもしてねぇ~し、
煙草も……市原は心の中でそう呟いた。
「ところで市原、おまえ香港と日本で
坂田とデカい取引を計画してたんだよな?
それと確か……ルミという女を連れてたな」
男が市原に尋ねた。
ルミ……玲子が市原のいた組織に潜入を
していた時の名前だ。
「ルミ……彼女はもういないよ」彼が呟いた。
「さてはぁ~、おまえルミを捨てたな」
男が言うと市原はすぐに、
「違うよ、俺が彼女にフラれたの」
と答えた。
「そうなんだ。いい女だったよな?」
「あぁ、物凄くいい女だったよ」
市原が微笑んだ。
「そう言えば、坂田……
あの人は今、どうしてる?」
男が聞くと市原は静かに口を開き、
「あの人は、計画が失敗して、
警察から逃げたんだが殺されたよ」
「殺された? もしかして……Queenか?」
「わかんね~よ。俺も逃げ回っていたからな、
やっとこの国に辿り着いたって訳さ」
市原は男に安心させるために偽りの言葉を
並べた。
「で、あんたは今何をしてるのさ」
彼が男に尋ねると、
「俺? 俺か? 俺は、Queenの組織下に
ある戦闘要員だ」
「戦闘? どこかと揉めてるのか?」
「いや、そうじゃないんだけど、
近いうちに大きなことをしでかす計画が
あるらしいんだ。
だから、兵隊がいるみたいで。
腕に自慢のあるヤツを集めてる。
そうだ、市原おまえも昔みたいに
一緒にやらないか?
おまえは、戦闘能力に加えて頭もいい。
もしかしたら、Queen直属の組織に入れて
もらえるかも……なぁ、そうすれば紹介した
俺にもだな……」
「金が入る……と言いたいんだろ?」
市原が微笑んだ。
「そういうことだ。でも、坂田の名前を
出せば一発で合格するんじゃないか?」
「俺は、坂田さんの下にいた男だ。
組織おろかQueenの顔も知らないのに。
おまえも、そうだろ? 誰もQueenの
顔を知らないんだから……」
市原は静かに呟いたが、すぐに何かを
思いついた様子で、
「いるぜ、即戦力になりそうなヤツ」
と目を光らせた。
「即戦力? どこのどいつだ」
「俺の仲間だ。逃げてる最中に知り合って」
「きな臭いヤツか?」
「大丈夫だ……銃も扱えるし接近戦にも強い」
「どこの国だ?」
「俺と同じ国だ」
「東洋人か……まぁ、いい。
市原、明日その男をここに連れて来い」
男はそう言うと店から出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!